外壁塗装のご相談を受けていると、屋根も一緒に、という話に必ずといっていいほどなります。ただ、屋根の塗装には外壁とは違う、ちょっと特殊な工程があることをご存知でしょうか。それが「縁切り」です。
スレート屋根は、板状の屋根材を少しずつ重ねて葺いてあります。実はこの重なりの部分に、雨水を逃したり、屋根裏の湿気を抜いたりするための、わずかな隙間が設けられているんですよね。ところが塗装をすると、塗料がその隙間を橋渡しするように固まってしまい、板同士がぴったりとくっついてしまうことがあります。これでは雨水の逃げ道がなくなってしまうので、塗装のあとに隙間を人の手で開け直す作業が必要になります。これが縁切りと呼ばれる工程です。
やり方としては、カッターやヘラで一枚ずつ切れ込みを入れていく昔ながらの方法と、塗装の途中でタスペーサーという小さな樹脂の部材を挟み込んで、隙間を自動的に確保しておく方法があります。どちらも屋根材の性質を踏まえた、地味だけれど欠かせない作業なんです。
前職で窓口をしていた頃、ある県のお客様から「天井にシミが出てきたんですが、これって塗装と関係ありますか」というお電話をいただいたことがあります。そのお宅は半年ほど前に、別の業者さんで屋根の塗装を終えたばかりでした。
現地を確認してもらったところ、屋根材の重なり部分がすっかり塗料で塞がれていて、縁切りがされていなかったことが分かりました。雨が降るたびに逃げ場を失った水が屋根材の内側にじわじわとまわり込み、屋根裏の木材にまで湿気が達していたんです。天井にシミが出るまで、ご本人はまったく気づけなかったとおっしゃっていました。塗装した直後は見た目もきれいで、何も問題がないように見えてしまうものですから、無理もないと思います。
あのときの、申し訳なさそうな、それでいてどこか困惑したようなお客様の声を、今でもよく覚えています。屋根の上のことは、施主さんの目にはほとんど届かない場所なんですよね。だからこそ、業者側の姿勢がそのまま結果に出てしまうのだと、あらためて感じた出来事でした。
縁切りが軽視されがちな理由は、単純に手間がかかるからだと思います。カッターでの手作業は屋根一面をひとつずつ確認していく必要がありますし、タスペーサーを使う場合も、部材の数だけ職人さんの手が止まります。工期を急いでいる現場や、そもそも縁切りの必要性を十分に理解していない職人さんが担当する現場では、この工程がそっと省かれてしまうことがあるようです。
厄介なのは、縁切りを怠っても、施工直後の見た目にはまったく現れないという点です。お客様からすれば、屋根がきれいに塗り上がっていれば、それで工事は成功したと感じるのが自然だと思います。ただ、そこに落とし穴が潜んでいることもある、というのが業界の内側にいた者としての実感です。こうした業者ばかりというわけではもちろんありませんが、確認しておくに越したことはないと感じています。
先日も、見積書を見てほしいというご相談をいただいた際に、屋根塗装の項目に縁切りやタスペーサーの記載が一切ないケースに出会いました。金額の内訳を見るだけでは分かりにくい部分なので、気になる方はご契約の前に、縁切りの方法はカッターなのかタスペーサーなのか、直接尋ねてみてほしいと思います。信頼できる業者さんであれば、屋根材の種類や現場の状況に応じて、きちんと説明してくれるはずです。
あわせて、タスペーサーを使う場合は見積書に数量が明記されているか、施工中や完了時に隙間の様子が分かる写真を残してもらえるか、という点も確認材料になります。もっとも、屋根材の種類によっては縁切り自体が不要なものもあるので、屋根がスレート系かどうかも含めて聞いてみるのがいいかもしれません。
屋根塗装は、仕上がりの美しさだけでは工事の質を測れない部分があるように思います。縁切りのように、施主さんの目には映りにくい工程にこそ、業者の丁寧さが表れるものなんですよね。同じような後悔をされる方を、少しでも減らせたらという思いで、今回お伝えさせていただきました。