前職で外壁塗装の窓口をしていた頃、長野県にお住まいの女性のお客様から、こんなお電話をいただいたことがあります。「工事の人にトイレを貸してほしいと言われたんですけど、貸さないといけないんでしょうか」。声には、少し困った様子が滲んでいました。
聞けば、契約前の打ち合わせでは何も説明がなく、工事が始まって数日経ってから、現場の職人さんに直接頼まれたとのことでした。ご高齢のご両親と同居されているご家庭で、知らない方に家の中まで入ってもらうことに抵抗があったそうです。当然だと思います。
実のところ、外壁塗装の現場で仮設トイレを用意する業者は、多いとは言えません。足場や飛散防止ネットのように見た目で分かる設備と違い、トイレは省略されやすい項目のひとつなんですよね。近くにコンビニや公衆トイレがあればそちらで済ませ、なければお客様のお宅を頼る、という運用になっているケースを、業界にいた頃からずっと見てきました。
もちろん、それ自体が悪いというわけではありません。短期間の工事で、近隣に商業施設があるなら現実的な選択かもしれません。ただ、問題はそれを事前に伝えていないことです。工事が始まってから、しかも職人さんから直接切り出されると、お客様は断りづらい立場に置かれてしまいます。
弊社で加盟店とやり取りをしていても、この「トイレをどうするか」を契約前の打ち合わせで説明してくれる業者と、そうでない業者とではっきり分かれます。仮設トイレのレンタル費用を見積もりに小さく計上している会社もあれば、近隣の店舗にあらかじめ一声かけて手配を済ませている会社もあります。どちらの方法にせよ、事前に説明があるかどうかが、その会社が現場をどれだけ具体的にイメージして見積もりを作っているかの、ひとつの目安になると感じています。
先日も、あるお客様から「見積書に仮設トイレの項目があって、逆に安心しました」というお声をいただきました。金額の大小より、そこまで考えて提示してくれているという事実の方が、信頼につながるのだと思います。
もし見積もりや契約の段階でトイレについての説明がなければ、こちらから一言確認してみることをおすすめします。「工事期間中、トイレはどうされますか」というシンプルな質問で構いません。それだけで、業者側がどこまで現場を想定しているかが見えてくるはずです。
貸す・貸さないに正解はありません。ご家族の事情や住宅の状況によって、判断は変わってきます。ただ、その判断を工事の途中で急に迫られるのと、契約前に落ち着いて考えられるのとでは、心の負担がまったく違うと思うのです。