外壁塗装って、自分から「やりたい」と思って始める方はほとんどいないんですよね。たいていは誰かに言われて、ハッとして動き出す。訪問してきた業者さんだったり、ご近所が塗ったのを見たり、きっかけはさまざまです。
前職で初めて担当したお客様のことを、今でも覚えています。築8年の戸建てにお住まいの方で、「軒先に来た業者さんに、もう限界だと言われた」と、ずいぶん不安そうなお電話でした。お話を伺って写真を送っていただくと、外壁はまだしっかりしていて、慌てて塗り替えるような状態ではなかったんです。あのとき、もし私が話を聞いていなかったら、と思うと今でも胸がざわつきます。
「そろそろですよ」という言葉には、不思議な力があります。専門家らしい人にそう言われると、素人の私たちは反論できない。でも、その一言だけで何十万円もの工事を決めてしまうのは、やっぱり早いと私は思うんです。
では、何を見ればいいのか。難しい話ではありません。お家は、ちゃんとサインを出してくれているんです。
いちばん分かりやすいのが、壁を手で触ったときに白い粉がつくかどうか。チョーキングと呼ばれる現象で、塗膜が紫外線で劣化してくると出てきます。これが出始めたら、すぐにではないけれど、そろそろ考え始めてもいい頃合いかな、というくらいの目安です。
あとは、ひび割れ。髪の毛ほどの細いものなら様子見でも構わないことが多いのですが、指が引っかかるくらいの幅になってくると、そこから水が入る心配が出てきます。コーキング(壁の継ぎ目のゴムのような部分)が痩せて隙間ができているのも、見逃しやすいサインなんですよね。脚立に登らなくても、ベランダや庭から見える範囲でけっこう分かります。
業界に身を置いて二十年、私が思うのは、こうしたサインを「自分の目で一度見ておく」ことの大切さです。人に言われるより前に、ご自分で気づいていると、いざ業者さんと話すときの安心感がまるで違うんです。
焦らせる業者の話ばかりしてきましたが、逆のケースも忘れられません。
東北地方のあるお客様から、雨漏りのご相談をいただいたことがありました。お話を聞くと、十数年、外壁にはまったく手をつけていなかったとのことで。届いた写真を見て、私は言葉に詰まりました。塗膜はとうに役目を終えていて、下地の木部まで傷んでいたんです。「もっと早く相談すればよかった」と、電話口で何度もおっしゃっていました。
外壁塗装は、見た目を綺麗にするためだけのものではないんですよね。本当の役目は、雨や紫外線から家そのものを守ること。塗り替えを先延ばしにしてしまうと、塗装だけでは済まなくなって、下地の補修まで必要になる。結果として、費用が大きくふくらんでしまうことがあるんです。早すぎる契約も、遅すぎる放置も、どちらもお客様を苦しめる。私はそう感じています。
「で、結局いつやればいいの」と思われますよね。正直なところ、お家ごとに条件が違うので、一律の答えはないというのが本音です。日当たり、地域の気候、前回どんな塗料を使ったか。同じ築年数でも状態はまるで違います。
だから私がいつもお伝えしているのは、「焦って一社で決めず、まず状態を知ること」です。気になるサインが出てきたら、複数の業者さんに見てもらう。そのうえで、すぐにやるべきなのか、もう少し待てるのか、根拠とあわせて説明してくれる相手かどうかを見る。誠実な業者さんは、「まだ大丈夫ですよ」と正直に言ってくれるものなんです。先日も、診断だけ受けて「あと二、三年は様子見で」と言われ、ほっとされたお客様がいらっしゃいました。
不安をあおって今すぐの契約を迫る相手より、待てるなら待ちましょうと言ってくれる相手のほうが、長い目で見て信頼できる。これは、たくさんの現場を見てきた私の実感です。