前職で追加費用のご相談を初めて受けた時のことを、今でも覚えています。お電話の向こうのお客様は、契約金額にはきちんと納得して工事に入られた方でした。それなのに、足場が組まれて数日後に「下地がかなり傷んでいたので別途かかります」と言われ、続けて「軒天も、雨樋も」と次々に追加が重なっていったそうなんです。
声を震わせながら「もう断れる雰囲気じゃなかった」とおっしゃっていて、私はしばらく言葉が出ませんでした。家の周りを足場で囲まれて、職人さんが毎日出入りしている。その状況で「やめます」とはなかなか言えないものなんですよね。
追加工事そのものが悪いわけでは、決してありません。実際にカバーを外してみて初めて分かる傷みは、現場では普通にあります。問題は、その伝え方とタイミング、そして金額の根拠が曖昧なまま話が進んでしまうことだと、私は思っています。
長く現場を見ていると、追加には二種類あると感じます。ひとつは、開けてみないと分からなかった本当に必要な補修。もうひとつは、最初から分かっていたはずなのに、あえて見積もりに入れず後から乗せてくるもの。後者がやっかいなんです。
たとえばシーリングの打ち替えや付帯部の塗装は、家を一度見れば見当がつく部分です。それを最初の見積もりにあえて含めず、契約を取りやすい安い金額を提示しておいて、工事が始まってから「これも必要ですね」と足していく。そういう進め方をする一部の業者がいるのも、残念ながら事実なんです。
東北のあるお客様から、当初の倍近い金額になってしまったとご連絡をいただいたことがありました。一つひとつの追加には一応の理由がついていて、その場では反論しづらい。けれど後から冷静に見れば、最初から見えていたはずの箇所ばかりだったんです。お話を伺いながら、なんとも言えない気持ちになりました。
もし工事の途中で追加を提案されたら、まずひと呼吸おいてほしいんです。その場で即答する必要はありません。
「どこが、どう傷んでいて、なぜ今必要なのか」を写真で見せてもらう。これだけでずいぶん違います。きちんとした職人さんなら、傷んだ箇所の写真を撮って説明してくれますし、むしろ自分から見せてくれることのほうが多いんですよ。逆に「とにかく今やらないと」と急かしてくる場合は、一度立ち止まったほうがいいサインかもしれません。
金額の出し方も大事です。一式でまとめて言われると判断のしようがありません。何平米にいくら、という単位で説明してもらえるかどうか。ここで誠実さがけっこう見えるものなんですよね。そして、その場で契約書にサインを求められても、一晩考えさせてくださいと伝えていいんです。家族に相談する時間を持つこと、それ自体がお客様の正当な権利だと、私は思っています。
結局のところ、工事中の追加で慌てないためには、契約前のやりとりがいちばん効きます。「工事中に追加費用が発生する可能性はありますか」「あるとしたら、どういうケースですか」。この質問を、契約前にぜひ投げかけてみてください。
誠実な業者さんほど、開けてみないと分からない部分があることを正直に話してくれますし、その場合の上限や進め方まで教えてくれます。逆に「うちは絶対に追加はありません」と言い切る業者も、私は少し慎重に見ています。古い家であればあるほど、現場には想定外がつきものですから。曖昧に濁すのも、言い切りすぎるのも、どちらも気をつけたいところなんです。
業界に身を置いて二十年、たくさんの後悔を聞いてきました。その多くは、聞いておけば防げたひと言だったように思うんです。