前職で外壁塗装の窓口をしていた頃、長野県にお住まいの60代の女性からお電話をいただいたことがあります。訪問営業で来た業者と契約したものの、工事の日程を確認しようと名刺に書かれた番号にかけても、なかなか繋がらない、と。よくよく聞くと、名刺に書かれていたのは携帯電話の番号だけで、会社の固定電話も、事務所の住所も、どこにも記載されていなかったんですね。
慌てて会社名で検索してみても、簡素な一枚だけのホームページしか出てこず、所在地として書かれていた住所も、実際には別の会社が入っている雑居ビルだったそうです。結局その業者とは連絡が取れなくなり、工事は途中で止まったまま、お客様は途方に暮れてしまいました。こうした話を、私は担当していた10年の間に、何度も耳にしてきました。
名刺の肩書きも「営業部長」となっていたのですが、後になって、社員がその方一人しかいない会社だったと分かったそうです。
契約を決める理由の多くは、営業担当者の人柄なんですよね。感じが良い、話をよく聞いてくれる、そう感じて契約に進む方がほとんどです。でも、営業担当者個人の印象と、その会社がきちんとした体制を持っているかどうかは、まったく別の話なんです。
数年前、神奈川県のお客様からご相談を受けたことも忘れられません。とても丁寧な営業の方だったそうで、契約書にサインをした後になって、その会社が設立してまだ半年ほどだったと知ったそうです。悪い業者だったとは言い切れませんが、施工実績もまだ少なく、何かあったときに会社として対応してもらえるのか、お客様はずっと不安を抱えたまま工事を迎えることになってしまいました。
工事自体は無事に終わったそうですが、それでも「もっと早く調べておけばよかった」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
会社の実体を確認するというと、難しく聞こえるかもしれません。でも実際には、固定電話番号が名刺や見積書に書かれているか、会社所在地が実際に事務所や倉庫として機能している場所か、設立から何年ほど経っている会社なのか、といった、ごく基本的なことを見るだけで、ずいぶん印象は変わってきます。地図アプリで住所を検索して、建物の様子を確認するだけでも分かることがあるものです。
資本金や代表者名がホームページに明記されているかどうかも、一つの目安になると思っています。もちろん、設立したばかりの会社が悪いというわけでは決してありません。ただ、何かトラブルが起きたときに、会社として責任を持って対応してくれる体制があるかどうかは、契約前に確かめておいて損はない部分だと感じています。
少し手間はかかりますが、法人番号を国税庁のサイトで検索したり、商業登記簿を取り寄せたりすれば、いつ設立された会社なのかを客観的に確認することもできます。大きな金額の契約をする前の、ほんの数十分の作業だと思っています。
業界に身を置いて20年になりますが、契約後に「会社と連絡がつかなくなった」というご相談は、今でも一定数あります。マッチングを管理していた頃、こうしたケースに立ち会うたびに、なぜ契約前にもう少しだけ確認する時間を取れなかったのだろう、と歯がゆい思いをしてきました。営業担当者の熱心さに背中を押されて、その場で決めてしまう気持ちも、分からなくはないんです。
だからこそ、弊社では業者情報を紹介する際に、所在地や設立年、施工実績といった基本的な情報もあわせてお伝えするようにしています。派手な実績よりも、まず「その会社が確かにそこにある」ということを、お客様自身の目で確かめてほしいと思っているからです。
同じ思いをする方を、一人でも減らしたい。ただその一心で、この仕事を続けています。