先日、埼玉県にお住まいのお客様からお電話をいただきました。工事から半年ほど経った頃、たまたま検索していた業者のホームページに、ご自宅の外観写真が「施工事例」として掲載されているのを見つけたそうです。「載せていいですか」と聞かれた記憶がない、とおっしゃっていました。
写真自体は特に加工されているわけでも、悪意があるわけでもなかったようです。それでも、知らないうちにご自宅がインターネット上で誰でも見られる状態になっていたことに、そのお客様は落ち着かない気持ちになったといいます。表札が写り込んでいたり、周辺の道路や隣家まで映り込んでいたりすると、なおさらだと思います。最近ではSNSに施工中の様子を投稿する業者も増えていて、気づいたときには工事の様子がタイムラインに流れていた、という話も耳にするようになりました。
前職で窓口業務をしていた頃、施工事例の写真は営業活動において大切な材料でした。仕上がりの良い写真は次のお客様への信頼材料になりますし、業者にとっても「うちの仕事を見てほしい」という気持ちがあるのは理解できます。足場が外れた瞬間の写真を、誇らしげに見せてくれる職人さんもたくさんいました。
ただ、そこにあるお客様との温度差を、何度も見てきました。業者側は当然のように撮影・掲載を進めているつもりでも、お客様の側は「工事の記録として撮っているだけ」だと思っていることがあるのです。この認識のずれが、後になって「知らなかった」という戸惑いにつながるのだと思います。忘れられないのは、掲載を知った日のお客様の声が、怒りというより寂しさに近かったことです。「うちは見せ物じゃないのに」という一言が、今も心に残っています。
建物の外観写真であっても、表札や車のナンバー、洗濯物などが写り込めば、住んでいる方を特定できる情報になり得ます。掲載の同意を得ることや、表札・ナンバーなどにモザイクをかけることは、業者として当然配慮すべき部分だと私は考えています。
契約書や約款の中に「施工事例として使用する場合がございます」といった一文が、小さく入っていることもあります。ご本人が同意したつもりがなくても、書面上は同意済みという扱いになっている。実務の現場では、こうした食い違いを何度も目にしてきました。掲載範囲や公開期間について、口頭だけで済ませてしまう業者が一部にあることも、気になっています。
契約前に「施工写真を撮影しますか」「掲載する場合は事前に見せてもらえますか」と一言確認しておくだけで、後々のすれ違いはかなり防げるはずです。掲載自体を断ってもいい話ですし、掲載するにしても表札を隠す、道路にナンバーが写らない角度にする、といった配慮をお願いすることもできます。
もし工事が終わったあとに無断掲載に気づいた場合も、慌てて連絡先を消してしまう前に、まずは業者へ削除や修正を依頼してみてください。多くの場合、指摘を受ければ対応してくれるはずですし、対応してもらえない場合は、その業者との今後の付き合い方を見直すきっかけにもなると思います。
弊社でも施工事例を掲載させていただくことがありますが、その際は必ず事前にお声がけし、どの写真をどこまで使わせていただくか、ひとつずつ確認するようにしています。当たり前のようでいて、意外と徹底されていない業界の一面だと感じています。
写真の扱いは、塗料の性能や職人の腕とは違って、目に見えにくい部分です。それでも、お客様の暮らしに関わる大切な配慮のひとつだと、私は思っています。