前職にいた頃、関東のあるお客様からお電話をいただきました。30代の奥様で、新しい色が楽しみで、工事の様子を毎日のようにインスタグラムに載せていたそうです。
足場が立った日、高圧洗浄の日、下塗りの日。お子さんと一緒に「今日はここまで塗れたよ」と並んで写っている写真もあったと伺いました。見ている側も温かい気持ちになる投稿だったと思います。
ところが工事も半ばの頃、フォロワーではない知らない人から「〇〇小学校の近くですよね」とメッセージが届いた。足場のシートに書かれた業者さんの社名と電話番号、背景に少しだけ写った交差点の看板。それをつなぎ合わせれば、だいたいの場所は分かってしまうんですよね。
何かあったわけではありません。それでも奥様は「家族の顔まで載せていたのに」と震える声でおっしゃっていて、あのときの声は今でも耳に残っています。
外壁塗装の工事中は、普段よりも家が「目立つ」時期です。
足場とメッシュシートには業者さんの名前が入っていることが多く、地域の業者さんであれば、それだけで市町村くらいまでは見当がつきます。電柱に付いている番号札、向かいのお宅の表札、ナンバープレートの見える車、窓から見える山の形。撮った本人はまず気にしないところに、手がかりはたくさんあるんです。
もう一つ気をつけていただきたいのが、時間の情報です。「今日から3日間、実家に帰ります」「職人さんが来てくれている間に買い物へ」。こういう書き込みは、家が空いている時間をそのまま知らせることになります。工事中は足場があって、上の階の窓にも近づきやすい。業界で防犯の話がよく出るのは、そういう事情もあるからです。
これは防犯とは少し違うお話です。
作業している職人さんの姿を載せたい、という気持ちはよく分かります。「暑い中ありがとう」という感謝の投稿は、見ていて嬉しいものです。ただ、写っている職人さんの中には、顔を出してほしくない事情を抱えている方もいます。業者さんの側でも、現場の写真の扱いにルールを決めているところがあります。
お隣のお宅が大きく写り込んでいて、後からご近所で気まずくなった、という相談も何件か受けました。投稿した方に悪気はまったくないんです。だからこそ、言われた側もどう伝えていいか分からず、もやもやが残ってしまうんですよね。
SNSに載せないでください、と言うつもりはありません。家がきれいになっていく喜びを誰かと分かち合いたい気持ちは、とても自然なものだと思っています。
ですので、私がお客様にお伝えしているのは「投稿のタイミングと写す範囲を少し工夫しましょう」ということです。工事中の写真は完成してからまとめて載せる。シートの社名や番号札、表札、車のナンバーは写らない角度にするか、ぼかしを入れる。出かける予定は、帰ってきてから書く。位置情報の設定もいちど見ておいていただきたいです(スマートフォンの設定で、写真に場所の記録が残るようになっていることがあります)。
職人さんを写したいときは、ひと言「載せてもいいですか」と聞いてみてください。きちんとした業者さんなら、気持ちよく答えてくれるはずです。そういうやりとりができる関係かどうかも、ある意味では業者さんとの相性を知る手がかりになると思います。