前職で施主様と業者さんの間に入っていた頃、工事が終わってから数か月たってお電話をくださる方がよくいらっしゃいました。お話を伺うと、気になる箇所は引き渡しの翌週には見つけていた、とおっしゃるんですよね。
どうしてすぐ言わなかったんですか、と伺うと、返ってくる答えはだいたい同じでした。「職人さんたち、暑い中ほんとうに頑張ってくれていたから」「お菓子まで持ってきてくれたのに、文句みたいで」。業者さんとの関係が良かったお宅ほど、言い出しにくくなる。皮肉な話ですが、これが現場のリアルです。
でも、気づいた時に伝えてもらえるほうが、業者さんにとってもありがたいんです。
今でも覚えているのが、埼玉県にお住まいの70代の奥様のお話です。2階の窓まわり、雨戸の裏側に近いところに、手のひらほどの塗り残しがあったそうです。下からはほとんど見えない場所で、ご主人には「気にしすぎだ」と言われたとか。
それでも洗濯物を干すたびに目に入る。毎日、少しずつ気持ちが沈んでいったと、お電話口で声を詰まらせていらっしゃいました。半年分の「もやもや」を一気に話されたあと、最後に「こんなことで電話してすみません」と。私はその一言が、なんだかとても切なかったんです。
業者さんに確認すると、すぐに伺いますとのことで、作業自体は1時間もかからずに終わりました。後日、奥様から「もっと早く言えばよかった」とお電話をいただいて。ほっとした声を聞きながら、半年という時間のほうが、よほど大きな負担だったんだなと感じました。
時間がたつと「工事のせいなのか、その後の汚れや傷なのか」が分かりにくくなります。業者さんも判断に迷いますし、お客様のほうもますます言いにくくなる。なので、気づいたら1〜2週間のうちに一度連絡してみてください。
伝え方は、責める言葉でなくて大丈夫です。「ここが少し気になったので、一度見ていただけますか」。これだけで十分なんですよね。スマホで場所が分かる写真を撮って送ると、話がとても早く進みます(遠くからの全体と、近くの1枚があると親切です)。
まともな業者さんほど、こうした連絡を嫌がりません。むしろ「言ってもらえて助かりました」と返ってくることが多いです。小さな手直しに気持ちよく応じてくれるかどうかは、その会社の姿勢が表れるところでもあると思っています。
塗り残しは見た目だけの問題で終わらないこともあります。わずかな隙間から雨水がまわって、数年後に傷みの入り口になってしまうケースも見てきました。
遠慮はやさしさから生まれるものです。そのお気持ちは本当に素敵だと思います。ただ、十年以上付き合っていくお住まいのことですから、その遠慮でご自身が苦しくなってしまうのは違うんじゃないかな、と。弊社にご相談いただいたお客様にも、「気になったら、どんな小さなことでも言ってください」とお伝えしています。言いにくければ、間に入るのも私たちの役目ですから。