「シリコンとフッ素、どっちがいいですか」というご相談を、前職時代から本当にたくさんいただいてきました。皆さん熱心に調べていらっしゃって、その姿勢には頭が下がる思いです。ただ、一つだけお伝えしたいことがあるんです。
どんなに良い塗料を選んでも、その下の処理が雑だと、数年で剥がれてしまうことがあるんですよね。塗装というのは、洗って、傷んだところを直して、下塗りをして、ようやく仕上げの塗料を塗る——その積み重ねなんです。塗料はあくまで最後の一手。土台がぐらついていたら、上にどんな立派なものを乗せても安定しないのと同じで。
ところが、この土台にあたる部分は、足場とシートに囲まれた中で進んでいきます。お客様の目には、ほとんど届かないんです。だからこそ、ここで差が出てしまう。
業界に身を置いて長くなりますが、忘れられないお話があります。前職で初めて担当した頃、ある戸建てのお客様から、工事の二日目にお電話をいただいたんです。「壁を水で洗っただけなのに、見違えるくらいきれいになった。これで終わりでもいいんじゃないかと思うくらい」と、半分冗談まじりに、でも本当に嬉しそうにおっしゃって。
高圧洗浄って、それだけ大きな仕事なんですよね。長年こびりついた汚れやコケ、古い塗膜の粉(これをチョーキングと言います)をしっかり落とす。ここが甘いと、その上にどれだけ塗っても、汚れごと塗料が浮いてきてしまう。あのお客様の声を聞いて、「この一工程をきちんとやる業者さんを、お客様に届けたい」と、強く思ったのを覚えています。
逆に、苦い記憶もあります。九州のあるお客様から、塗り替えて二年ほどで一部が剥がれてきた、とご相談をいただいたことがありました。お話を伺っていくと、雨の翌日にすぐ塗り始めていたようで。壁がしっかり乾いていない状態で塗ると、密着しないことがあるんです。塗料のせいではなく、工程の順番と、乾かす時間。そういう「見えない手間」を省いてしまったのだろうな、と感じる事例は、振り返ると複数件ありました。
誤解してほしくないのですが、多くの職人さんは本当に丁寧な仕事をされています。ただ、構造として「手を抜いても、その日は分からない」のがこの工事の難しいところなんですよね。
下塗りを一回で済ませる、洗浄をさっと流す、乾燥を待たずに次へ進む。どれも、塗り終わった直後の見た目はきれいなんです。きれいだからこそ、お客様は満足して見送られる。問題が出てくるのは、数年経ってから。その頃には、なぜそうなったのか分からなくなってしまう。一部の、急いで件数をこなそうとする業者ほど、見えない部分から削っていく傾向があるように感じています。
では施主さんはどうすればいいのか。専門用語を覚える必要はないんです。私がいつもお伝えしているのは、「工程を、言葉にして説明してくれる業者さんを選んでください」ということ。
見積書や打ち合わせの段階で、「洗浄をして、下地を直して、下塗り・中塗り・上塗りと三回塗ります」と、順を追って話してくれるかどうか。写真で経過を見せてくれるか。これを面倒がらずにやってくれる方は、現場でも同じように、見えないところを丁寧にやってくれることが多いと感じています。
もし不安なら、工事の途中で「今日はどの工程ですか」と一言聞いてみるだけでもいいんです。きちんとした職人さんなら、嫌な顔ひとつせず教えてくれます。その小さなやりとりが、お互いの安心につながっていくんですよね。