見積もりを比較していただくこと自体は、とても良いことだと思っています。何社かの金額や項目を並べて、初めて見えてくるものがたくさんありますから。ただ、その比較のために他社の見積書をそのまま渡してしまうと、業者側はそこに書かれた金額をひとつの「答え」として見てしまうことがあるんですよね。
前職で担当者から聞いた話ですが、他社の見積書を見せられた営業さんが、その金額よりわずかに安い数字を出すために、内訳のどこかで帳尻を合わせることがあるそうです。塗料のグレードを一段階落としたり、下地処理の工程を簡略化したり。表面上の金額は下がっても、工事の中身まで下がってしまうことがあるという話でした。
忘れられないお話があるんです。岡山県のお客様から、ある年の秋にご相談をいただきました。二社から見積もりを取り、二社目の営業さんに一社目の見積書をそのまま見せたところ、「うちはそれより5万円安くします」とその場で即答されたそうです。お客様は喜んで契約されました。
工事が始まってしばらくして、お客様から「足場を組んでいる期間が思ったより短い気がする」というご相談の電話をいただきました。詳しく伺うと、一社目では乾燥期間を含めて提示されていた工程が、二社目では詰めて組まれていたことが分かりました。金額を合わせるために、どこかで帳尻を合わせる必要があったんだろうと思います。お客様は最終的に大きな問題にはならなかったとおっしゃっていましたが、「安くなった理由をちゃんと聞いておけばよかった」と話されていたのが、今でも心に残っています。
だからといって、相見積もりをやめる必要はまったくありません。比較すること自体は、適正な金額や工事内容を知るためにとても大切なことです。ただ、他社の見積書をそのまま渡すのではなく、「金額」ではなく「項目」で比較していただくことをお勧めしています。
たとえば、下塗り・中塗り・上塗りの塗料名やグレード、足場の種類、養生の範囲といった項目を自分の言葉でメモしておいて、それを基準に質問する形です。金額の数字だけを見せてしまうと、業者側は「その数字に合わせること」が目的になってしまいがちです。中身を保ったまま、なぜその金額なのかを説明できる業者かどうかを見てほしいなと思っています。
値下げの提案を受けたときは、「どの項目を減らして安くしたのか」を聞いておいていただきたいです。工程や材料を変えずに安くなる理由がある場合もありますし、逆に何かを削っている場合もあります。そこをはっきり答えられない業者には、少し慎重になった方がいいかもしれません。