岡山県にお住まいの息子さんから、以前お電話をいただいたことがあります。実家の外壁が真っ白にチョーキングしていて、母親名義の口座から工事費用を出そうとしたら、銀行の窓口で「ご本人の意思確認ができないため、お引き出しできません」と言われたそうです。母親は数年前から認知症の診断を受けていて、本人はもう契約の内容を理解できる状態ではありませんでした。
息子さんは「家族なんだから当然できると思っていた」とおっしゃっていて、その戸惑った声を今でも覚えています。悪気があったわけではなく、単純にそういう制度があること自体を知らなかったんですよね。
成年後見制度は、判断能力が十分でない方に代わって、家庭裁判所が選んだ後見人が契約や財産管理を行う仕組みです。制度自体は珍しいものではないのですが、実際に自分の親がその対象になるまで、存在すら意識したことがないという方がほとんどだと感じます。
外壁塗装は数十万円から百万円を超える契約になることもあります。本人の意思確認が取れない状態での契約は、業者側としても本来は慎重にならざるを得ません。ここを曖昧にしたまま進めてしまう業者も中にはあって、それが後々のトラブルの種になっているのを見てきました。
家庭裁判所への申立てから後見人が選任されるまで、数ヶ月かかることも珍しくありません。外壁の劣化は待ってくれませんから、「梅雨までに終わらせたい」というご家族の希望と、制度上の手続き期間がかみ合わずに、工事のタイミングを丸ごと見直すことになったご家庭もありました。
先に制度のことを知っていれば、もっと早く動けたはずなんです。私たちにできることは、契約の主体が誰になるのかを相談の段階で確認し、必要であれば司法書士や弁護士といった専門家への相談を早めに促すことだと思っています。
判断能力があるうちに、財産管理を子どもなどに託しておく「家族信託」という仕組みを使えば、いざというときに口座が動かせないという事態を避けられる場合もあります。うちの親はまだ元気だから関係ない、と思われるかもしれません。でも、外壁の劣化に気づいてから制度を調べ始めるのでは、実際遅いこともあるんですよね。
元気なうちに一度、家族で話しておく価値のあるテーマだと感じています。
私たちは塗料や工法の話をする前に、まず「契約者はどなたになりますか」という確認を丁寧にするようにしています。それだけで防げる混乱が、思っている以上にあるからです。外壁塗装は家を守る工事ですが、その手前でご家族が困ってしまっては本末転倒ですから。