ここ数年で、戸建てに防犯カメラを設置するご家庭がずいぶん増えました。玄関先だけでなく、駐車場や勝手口、隣地との境界を狙って設置しているお宅も珍しくありません。防犯目的なので当然ですし、私自身も悪いことだとはまったく思っていません。
ただ、外壁塗装の現場に立ち会っていると、このカメラの存在をすっかり忘れたまま工事が進んでしまうことがあります。足場を組む位置、養生シートを張る範囲、そうしたものが知らず知らずのうちに、お隣のカメラの画角に入り込んでしまうんです。
足場というのは不思議なもので、組まれた瞬間にその家の「見える範囲」がガラリと変わります。二階の窓から見えなかった隣家の庭が見えるようになったり、逆に隣家のカメラから見て、こちらの窓辺の様子が今まで以上にはっきり映るようになったり。
職人さんが足場の上を移動する姿は、カメラを設置している側からすると「知らない人がずっとこちらを向いている」ように映ることもあります。悪気がなくても、映される側の受け取り方は別問題なんですよね。ここのすれ違いが、静かに積み重なっていきます。
長野県のあるお客様から、工事開始から一週間ほど経った頃にお電話をいただいたことがあります。「お隣から、足場の作業員がずっとうちの庭のほうを見ていると言われてしまって」というご相談でした。
お話を伺うと、作業員の方に他意はまったくなく、足場の安全確認のために視線を送っていただけだったんです。それでもお隣にしてみれば、自宅のカメラに映る見知らぬ人影が、日に日に気になっていったようでした。お客様ご自身は工事の内容にはとても満足されていたのですが、「ご近所付き合いにヒビが入りそうで、それが一番つらい」とおっしゃっていたのを、今でもよく覚えています。忘れられないお話なんです。
結局そのお客様は、業者の現場責任者に間に入ってもらい、お隣に一言挨拶と説明をしてもらうことで落ち着きました。ですが、もし最初の挨拶回りのときにカメラの存在まで気に留めていれば、そもそも起きなかったすれ違いだったと思います。
業界に身を置いて長く感じるのは、こうしたトラブルの多くが「悪意のなさ」から生まれているという点です。だからこそ、事前の一言が効くんですよね。近隣挨拶の際に「お宅のカメラの向きも確認させてください」と一声かけるだけで、印象はずいぶん変わります。
お客様の側からも、契約前の打ち合わせで「隣家の防犯カメラの位置」を業者に伝えておくと安心だと思います。足場の設計や養生の張り方を、少しだけカメラの死角を意識したものに調整してもらえることもあります。すべての現場でできるとは限りませんが、聞いてみる価値はあります。
近隣との関係は、工事が終わったあとも続いていくものです。塗装の仕上がりがどれだけ良くても、ご近所との空気がぎくしゃくしてしまっては、住み心地にまで影響しかねません。そうした気持ちで、私は日々お客様のご相談に向き合っています。