外壁塗装の点検にうかがうと、ひび割れやチョーキング(触ると白い粉が手につく現象)を見て「今すぐ塗り替えが必要です」と伝える業者もいれば、「まだ数年は持ちますよ」と伝える業者もいます。前者は不安を煽っているように聞こえ、後者は良心的に映るものです。ただ、この二つの診断のどちらか一方だけを聞いて安心してしまうのは、少し危ういことだと私は思っています。
外壁の劣化具合というのは、見る角度や経験によって評価が変わる部分があるからです。ベテランの職人が見れば数年先まで見通せる劣化も、点検に慣れていない担当者では見逃してしまうことがありますし、逆に契約を急ぎたい業者が、実際よりも深刻に伝えてくることもあります。どちらの立場の診断であっても、それが唯一の判断材料になってしまうことに、リスクがあるんですよね。
前職で施主と業者のマッチングをしていた時期、同じ建物について複数の業者から点検結果を聞いたお客様から、「言っていることが全然違うんですが、どちらを信じればいいんでしょうか」と相談を受けることが何度もありました。ある業者はコーキングの劣化を理由に「あと1年以内に」と言い、別の業者は「表面はまだ保っている」と言う。どちらも嘘をついているわけではなく、見ている基準や経験、あるいは会社としての営業方針が違うだけということも多いのです。
これは医療の世界で例えるなら、一人の医師の診断だけで手術を決めてしまうものに近いのかもしれません。悪意がなくても、人によって見立てが変わることはありますし、それ自体は自然なことだと思います。問題は、施主の側にその診断を確かめる手段がほとんど用意されていないという、業界の構造そのものにあると私は考えています。長年この業界に身を置いていても、こればかりは仕組みとして解決されないまま残ってきた課題だと感じます。
忘れられないお話があるんです。長野県にお住まいのお客様から、契約直前になってお電話をいただいたことがありました。訪問してきた業者から「このままだと雨漏りにつながります」と言われ、契約書にサインする一歩手前だったそうです。ただ、なんとなく決めきれない気持ちがあって、念のため別の業者にも見てもらったところ、実際に補修が必要だったのは外壁の一部分だけで、屋根に近い箇所は経年劣化の範囲内だったということが分かりました。
そのお客様は電話口で、「危うく必要のない工事まで契約するところでした」と、少し笑いながらも安堵した様子で話してくださいました。私自身、この手の話を聞くたびに、診断そのものを疑ってほしいというより、ひとつの意見をそのまま鵜呑みにしない習慣を持ってもらえたらと感じています。同じような場面は、この一件だけではなく、これまでにも何度か耳にしてきました。
とはいえ、何社にも点検を依頼するのは、施主にとって時間も気力も要ることです。日程調整の連絡だけでも億劫になりますし、業者ごとに営業トークを聞かされる負担も軽くありません。私が施主の方々にお伝えしているのは、少なくとも診断が分かれた場合には、写真や指摘箇所を記録しておいて、もう一社に見てもらうという姿勢を持ってほしいということです。
写真は同じ角度、同じ場所で撮っておくと、後から見比べる時にとても役立ちます。指摘された箇所を業者ごとにメモしておくだけでも、次に見てもらう相手に説明しやすくなりますし、話が噛み合わないという事態も減っていくと思います。
すべての工事で二社、三社と点検を重ねる必要はないと思います。ただ、金額が大きく動く工事だからこそ、ひとつの診断を最終判断にしないという意識が、後悔を減らす分かれ目になるのではないかと感じています。