前職で外壁塗装の窓口をしていた頃、忘れられない電話がありました。長野県にお住まいのお客様で、足場が組み上がった翌日、慌てた声で「テレビが急に映らなくなったんですが、工事と関係ありますか」と連絡をくださったんです。担当していた業者に確認すると、原因はやはり足場のシートでした。工事前の打ち合わせでは色や工程の話ばかりで、電波のことなど誰も触れていなかったそうです。お客様は「知っていれば心の準備ができたのに」とおっしゃっていて、その言葉が今でも耳に残っています。
外壁塗装の足場には、粉じんや塗料の飛散を防ぐためのメッシュシートが張られます。このシートの中には、アルミを蒸着させた素材が使われているものがあり、これが地上デジタル放送やBS・CS放送の電波を遮ってしまうことがあるんですよね。すべての現場で起きるわけではありませんし、シートの種類やアンテナの位置、電波の強さによっても状況は変わります。ただ、実際に映りが悪くなったという相談を、私はこれまで何件も見聞きしてきました。
特にBS・CSは電波が弱く、影響を受けやすい傾向があります。地デジは電波塔との位置関係によって差が出るようで、まったく問題が出ない現場もあれば、数日間映らなくなる現場もありました。
この電波障害、実は工事前の一言で防げることが多いんです。信頼できる業者であれば、シートの素材や過去の事例をもとに「電波が弱くなる可能性があります」と事前に説明してくれます。そのうえで、ケーブルテレビへの一時切り替えや、仮設のアンテナブースターを用意してくれる業者もあります。
埼玉県のあるお客様から伺った話では、契約前に「テレビは大丈夫でしょうか」と質問したところ、担当者が少し困った顔をしたそうです。結局その業者とは契約せず、別の会社に依頼したところ、今度は最初から電波対策の説明があり、安心して任せられたとおっしゃっていました。小さな質問一つで、業者の姿勢が見えることもあるのだと思います。
業界に身を置いて20年になりますが、電波障害への向き合い方は業者によって本当に差があります。事前に説明し、対策まで用意している業者もあれば、聞かれるまで何も言わない業者もいます。悪気があるわけではなく、工程や見積もりの説明に追われて、そこまで気が回っていないケースも多いのだろうと感じています。
とはいえ、施主にとっては工事中の数日間、テレビが映らないというのは思った以上にストレスになるものです。特に日中一人でお過ごしの高齢のご家族がいるご家庭では、テレビが唯一の楽しみだったという声も聞いてきました。工事の完成度と同じくらい、こうした暮らしへの配慮も業者選びの判断材料にしてほしいと思っています。
外壁の色や塗料のグレードに比べると、電波の話は地味に見えるかもしれません。ただ、実際に工事を終えたお客様の声を振り返ると、大きな失敗談よりも、こうした小さな見落としの積み重ねが「もっと聞いておけばよかった」という後悔につながっているように感じます。契約前の打ち合わせで、色や価格だけでなく、暮らしにまつわる細かな質問を投げかけてみてほしいのです。その一つの答え方に、業者の誠実さが表れると私は思っています。