前職時代、一人暮らしの女性のお客様から工事開始から数日後にお電話をいただいたことがあります。「カーテンを開けたら、目の高さのすぐそこに職人さんがいて驚いた」という内容でした。二階の寝室やお風呂場は、普段なら誰かに見られる心配のない高さです。ところが足場が組まれ、その上を職人さんが行き来するようになると、話は変わってきます。窓の外の景色が一変してしまうんですよね。
そのお客様は工事自体には満足されていたのですが、「事前にひとこと言ってもらえていたら心構えができたのに」とおっしゃっていて、私はその言葉が今も心に残っています。
外壁塗装というと、どうしても「外の工事」というイメージが先に立ちます。見積もりの打ち合わせでも、色や塗料、工期の話が中心になり、足場が家の中の暮らしにどう影響するかまで踏み込んで説明する業者は、実はそれほど多くありません。
職人さんの側からすると、足場の上での作業は日常の一部です。悪気があって窓の中を見ているわけではなく、ただそこに足場があり、そこが持ち場だからそこにいる。それだけのことなんです。ただ、住んでいる側からすると事情が違います。着替えのタイミングや、お子さんのお昼寝、洗濯物を干す時間まで、これまでと同じようにはいかなくなることがあります。
私が業者選びの相談を受けるとき、必ずお伝えしていることがあります。ひとつは、足場に張るメッシュシートの種類です。目の粗いものと細かいものとでは、外からの見え方がかなり違います。もうひとつは作業時間帯で、朝の早い時間や夕方以降は在宅時間と重なりやすく、気になる方は業者に相談してみる価値があります。
先日も、二階のベランダをしばらく使わない前提で洗濯物の干し方を工夫されたお客様がいらっしゃいました。工事期間はどうしても限られていますから、その間だけ生活のリズムを少し調整するというのも、ひとつの現実的な向き合い方だと思います。レースカーテンを厚手のものに一時的に替えるだけでも、ずいぶん気持ちが違うという声も聞きます。
業界歴を重ねる中で、こうした「暮らしの中の小さな不安」は、価格や工法の話に比べると後回しにされがちだと感じています。ですが、実際に工事期間を過ごすのはお客様ご自身です。契約前の打ち合わせで、色や金額の話だけでなく、足場が上がっている間の暮らし方まで聞いておく。それだけで、工事期間の心持ちはずいぶん変わるはずです。
同じ思いをするお客様をもう一人でも減らしたいという気持ちで、私はこうした話を伝え続けています。