神奈川県のあるお客様から、工事が始まって数日後に電話をいただいたことがありました。「お隣さんが、うちの足場のせいで庭の家庭菜園が育たなくなったと言ってきて」というお話でした。張られていたのは遮光性の高い濃い色のメッシュシートで、隣家の南側の窓をほぼ一日中覆う形になっていたんです。
業者からすれば、飛散防止という目的さえ果たせればシートの色までは考えていないことが多いんですよね。でも足場が組まれる期間は短くて一週間、長ければひと月以上に及びます。その間、隣家の日照や室内の明るさが変わってしまうというのは、住んでいる側からすると小さな話ではありません。
忘れられないお話があるんです。前職時代、足場と養生シートで家全体を覆ったお宅で、宅配便のドライバーが何度も家を探し当てられずに引き返してしまったことがありました。表札も郵便受けの番地表示も、シートの内側に隠れてしまっていたんです。
もっと重く受け止めたのは、救急車を呼んだ際に住所の目印が見えず、到着が少し遅れたと後になって聞いたケースです。幸い大事には至りませんでしたが、業者に「シートの外側に番地が分かるものを貼ってもらえませんか」と一言伝えていれば防げた話だったと思うと、今でも心に残っています。
足場代やシート代を抑える方法として、企業ロゴや広告が印刷されたメッシュシートを無料または割安で提供する業者があります。施主にとっては費用が浮くのでありがたい話に聞こえますが、これも近隣の受け止め方までは業者側から説明されないことがほとんどです。
「うちの前の景色が急に広告になった」と感じるご近所の方は、想像以上にいらっしゃいます。私が担当したお客様の中にも、工事後にご近所から遠回しに苦言を呈された方がいました。値引きの理由まできちんと近隣に説明していれば、また違った受け止められ方をしたのではないかと思います。
メッシュシートには、白っぽい透け感のあるものから、黒に近い遮光タイプまで種類があります。ですが見積書の段階で「シートの色はどうしますか」と聞いてくる業者は、正直なところ多くありません。標準品がそのまま張られて、工事が終わってから気づくお客様がほとんどです。
住宅街の中で、周囲の景観に馴染みやすい色を選ぶ、あるいは隣家の窓側だけ透過性の高いものに変えてもらう。こうした配慮は少し相談すれば対応してもらえることが多いんですよね。知らなかったばかりに選べなかった、という状態を減らしたいという気持ちで、この話を書いています。
養生メッシュシートは、工事が終われば外されてしまうものなので、見積書でも会話でも後回しにされがちな存在です。でも工事期間中、ご近所との関係を左右する要素になり得るというのが、現場を見てきた私の実感です。契約前に「シートの色や表札の見え方はどうなりますか」と一言添えるだけで、防げる気まずさがあると思っています。