ロープアクセス塗装というのは、ビルの窓拭きのように、命綱をつけた職人が屋上からロープで吊り下がりながら壁面を塗っていく工法です。もともとは高層ビルの外壁補修や、足場を組む場所そのものがないような現場のために発達してきた技術だと聞いています。足場の組み立て・解体という手間がまるごとなくなるので、その分の費用が浮く、という説明を受けたお客様も多いのではないでしょうか。
実際、狭い旗竿地や、隣家との距離がほとんどないお宅では、足場そのものを組めないケースがあります。そういう現場でロープアクセスが選ばれるのは理にかなっていると、私も思います。
前職で、香川県のあるお客様から伺った話を今でも覚えています。ごく普通の二階建てのお住まいで、見積もりを比較していたところ、一社だけ他社よりかなり安い金額を提示してきたそうです。理由を聞くと「足場を組まずロープで塗るので、その分安くできます」という説明だったとのことでした。予算を抑えたい気持ちもあり、そのお客様は契約されたのですが、工事が終わってしばらくすると、窓まわりの角や、雨樋の裏側あたりに塗り残しのようなムラがあることに気づかれたんですね。
後から職人さんに近い方に話を伺う機会があったのですが、ロープで宙づりの状態だと、体の位置を細かく固定しづらく、入り組んだ部分に均等な力で刷毛を入れるのがどうしても難しくなる、という話でした。腕の良い職人であっても、揺れる足場の上での作業には限界があるという、当たり前といえば当たり前のことなんです。そのお客様は「安さに気持ちが動いてしまって、施工のしやすさまで考えていなかった」と、少し寂しそうにお話しされていました。
私が業界に身を置いて感じるのは、足場というのは単に職人が高い場所に立つための道具ではない、ということです。安定した足場があるからこそ、ひび割れやコーキングの劣化を近い距離でじっくり確認できますし、下塗り・中塗り・上塗りをそれぞれ均一な厚みで塗り重ねることもできます。軒天や破風板の裏側といった、普段は見えない場所の傷みに気づけるのも、足場があってこそだったりします。
加えて、足場にはネットを張ることで、塗料の飛散を防ぎ、近隣への配慮をする役割もあります。ロープアクセスの場合、この飛散防止の面でも工夫が必要になってきますので、その点も現場によっては見過ごされがちだという話を聞いたことがあります。
誤解のないようにお伝えしたいのですが、ロープアクセスという工法自体を否定したいわけではありません。足場を組む場所が本当にない現場や、高所作業に慣れた資格保有の職人がきちんと施工する場合には、有効な選択肢になり得ると思います。
大切なのは、なぜその工法が提案されているのかを、お客様自身が理解した上で選ぶことだと感じています。「価格を下げるための工法」なのか「その現場では足場が組めないための工法」なのか。担当する職人がロープ高所作業に関する教育を受けているか。仕上がりの保証はどう扱われるのか。こうした点を一つひとつ確認していただくだけで、後から感じる後悔はずいぶん減るのではないかと思っています。