数年前、埼玉県のあるお客様から相談を受けたことがあります。外壁塗装の工事がすべて終わった後、担当の営業さんから「よろしければ口コミサイトに星5つで投稿していただけると、次にご家族やご友人を紹介してくださったときの手数料を少し多めにお戻しします」と言われたそうなんです。お客様はその場では悪い気はしなかったとおっしゃっていました。工事自体には満足していたし、担当の方にも良くしてもらったからです。
ただ後になって、「本当は足場の解体のときに少し雑に感じた部分があったのに、それを書きそびれてしまった」と私に話してくださいました。星5つを付けることが先に決まっていたので、細かい不満まで書く気になれなかった、というんですね。これは別に誰が悪いという話ではないと思います。ただ、口コミというものの性質を、私自身も改めて考えさせられた出来事でした。
私も前職で13,000件以上の施主さんと業者さんのマッチングに関わってきましたが、口コミサイトの星の数だけを見て「ここなら安心」と決めてしまう方が、思っていたより多いという実感があります。星の数は確かに一つの目安にはなります。でも、その星がどんな経緯で付けられたものなのか、私たちには見えていないことのほうが多いんですよね。
投稿日がある時期に集中していないか、良い評価の中に具体的な工事内容の記述があるか、低い評価にどんな理由が書かれているか。こうした細かいところまで見て初めて、口コミは意味を持ってくるのだと思っています。星の数字だけを追いかけると、かえって業者選びを誤ってしまうこともあるのではないでしょうか。
2023年10月から、いわゆるステルスマーケティング規制が景品表示法の中で運用されるようになりました。対価を受け取って投稿する場合には、その旨を明示しなければならないというルールです。外壁塗装の業界でも無関係な話ではないと、私は感じています。
もちろん、工事に満足したお客様が自発的に良い口コミを書いてくださることは、業者にとってありがたいことですし、それ自体は悪いことでも何でもありません。私が引っかかるのは、割引という条件を先に提示してしまうことで、お客様が本当に感じたことを書きにくくしてしまう構造のほうなんです。忘れられないお話があるんですが、あるお客様は「断りづらくて、結局当たり障りのないことしか書けなかった」と、少し申し訳なさそうに話してくださいました。断る側に気を遣わせてしまう時点で、もう対等な関係ではなくなっているのだと思います。
口コミを参考にすること自体は、私は良いことだと思っています。ただ、一つのサイトの星の数だけで決めるのではなく、複数の場所の評価を見比べてみてほしいんです。工事内容や担当者名など、具体的な記述があるかどうかも大事な手がかりになります。
そして、もし工事後に「口コミを書いてくれたら」という提案を受けたとしても、それを断ったからといって不利益を受けるようなことがあってはならないと思っています。良い口コミを書きたいと思えるかどうかは、あくまでお客様ご自身の気持ち次第であってほしい。そこだけは、業界に身を置く一人として、譲れない部分だと感じています。