塗装という工事は、乾燥させながら仕上げていく工程の積み重ねです。下塗り・中塗り・上塗りと、各工程でしっかり硬化させる時間と環境が必要で、それが守られないと後々の不具合につながることがあります。
湿度が高い日に施工すると、塗膜の内側に水分が閉じ込められてしまうことがあります。外側だけが先に乾いて内部の水分の逃げ場がなくなると、やがて膨れや剥がれとして現れてくる。こういった現象は施工直後には気づきにくく、1〜2年後になってじわじわと出てくるのが厄介なんですよね。
「晴れていれば大丈夫」と思っていらっしゃる方も多いのですが、気温・湿度・風の状態が複合的に絡み合っています。晴天であっても湿度が高い日は、経験のある職人ほど施工を慎重に判断するものです。天気予報だけでは読み切れない「現場の空気感」というものが、確かにあります。
忘れられないお客様の話があります。
前職に在籍していたころ、神奈川県のお客様から「梅雨入り前に塗り終えてしまいたい」というご連絡をいただきました。外壁のひび割れが気になっていて、雨が続く季節を迎える前に手を打ちたいとのことでした。お気持ちはよく分かりましたし、私も「早めに段取りしましょう」と動きました。
ところが、工事が終わってから1年も経たないうちに、塗膜の一部が浮いてきたと連絡が入ったんです。施工した業者からは「作業日は晴れていたから問題はない」という返答でした。ただ、梅雨入り直前の5月下旬というのは、晴れていても湿度が上がり始めている時期です。あの時期の施工環境が万全だったかどうかは、今でも頭の片隅に引っかかっています。
お客様は業者と長い交渉をされることになりました。結果を直接確認することはできませんでしたが、「もう少し余裕をもったスケジュールで動けていれば」という思いが残ります。焦りが判断を曇らせることは、お客様だけでなく、受け付け側だった私にもあったのかもしれないと、振り返るたびに感じます。
「冬は塗装できないの?」とよく聞かれます。
気温が5度を下回る日や、早朝に霜が降りるような環境では、塗料の硬化に影響が出やすいとされています。だからといって冬に一切できないわけではありませんが、時間帯や現場の状況によっては施工を控える判断が必要になることもあります。また、真夏の炎天下も油断できません。気温が高すぎると塗料が急激に乾いてしまい、塗膜の密着が弱くなることがある。「暑い日は乾きが早くていい」と思っていらっしゃる方もいますが、実際には逆のケースもあるんです。
台風シーズンの直前に「急いで終わらせよう」と工事を入れようとするお客様もいらっしゃいます。強風での施工は塗料の垂れや埃の巻き込みが起きやすく、仕上がりに影響することがあります。足場が台風に直撃した場合は、それだけでスケジュールが大幅に狂います。気持ちが焦る状況ほど、一歩立ち止まってほしいと思うんですよね。
一般的に、春(3〜5月)と秋(9〜11月)が施工しやすい時期と言われます。ただ、近年は気候が読みにくくなっていて、「この時期なら安心」と一概には言い切れません。大切なのは、その年の天候の流れを見ながら柔軟に判断することだと思っています。
あるお客様が、「工事中に雨が降りそうな空模様でも職人さんが作業を続けていた」とおっしゃっていました。
雨天でも作業できる工程はあります。養生の確認や道具の段取りなど、塗装以外の作業であれば問題ない場合もある。ただ、塗料を塗る工程そのものは、雨の日には避けた方がよいと思います。それでも作業を強行しようとする場合、「工期を短縮したい」「スケジュール通りに終わらせたい」という事情が優先されているのかもしれません。
経験を積んだ職人さんは、「今日は湿度が上がってきているから午後の塗りはやめておこう」という判断を、自然と下せます。そのひと呼吸が、2年後・3年後の塗膜の状態に少しずつ影響していくんです。価格や口コミだけでなく、「現場でどんな判断をする業者なのか」を見極めることが、長持ちする塗装につながると私は思っています。弊社が業者選びのご相談をお受けしているのも、まさにそこを一緒に考えたいからです。