雨水タンクは玄関先ではなく、裏庭や建物の側面、外壁にぴったり寄せて置かれていることが多いものです。見積もりに来た担当者が正面や道路側からぐるっと外観を眺めて終わってしまうと、そこに何が置いてあるかまで意識が向かないことがあります。タンクの容量にもよりますが、水を満タンに入れたままだと大人二人がかりでも簡単には動かせません。
足場を組む段階になって初めて「これ、どかさないと組めませんね」という話になり、当日その場でお客様がバケツで水を抜くはめになった、という現場に私自身も立ち会ったことがあります。決して珍しい話ではないんですよね。
忘れられないお話があるんです。埼玉県にお住まいのお客様から、工事が始まって二日目にお電話をいただきました。雨水タンクが給湯器のすぐ横に設置してあり、足場を組むために業者さんがタンクを動かそうとしたところ、配管の一部が破損してしまったというご連絡でした。タンク自体は数年前にご自身で設置されたもので、業者側はその存在を見積もり段階で把握していなかったそうです。
結局、配管の修理費用の負担をめぐって業者とやり取りが長引き、工事全体の進行にも影響が出てしまいました。お客様は「タンクがあることくらい自分から言うべきだったのか、それとも見に来た時に気づいてほしかったのか、今でもモヤモヤしています」とおっしゃっていました。どちらが悪いと決めつけられる話ではないのですが、事前にひと言確認さえあれば防げたのではと、私はいまだに考えてしまいます。
雨水タンクに限らず、外壁のすぐそばには意外な設備が置かれていることがあります。家庭菜園用の支柱、物置の裏に隠れた灯油タンク、ソーラーライトの配線、来客用のスロープ。どれも普段の暮らしの中では当たり前すぎて、住んでいるご本人にとっては「わざわざ言うほどのこと」に感じられないものばかりです。
ですが施工側からすると、こうした一つひとつが高圧洗浄の水しぶきの向きを変えたり、足場の建て方を工夫させたりする材料になります。現地調査のときに担当者が敷地をぐるっと歩いて回り、こうした小さな設備までメモしているかどうか。私はここに、その業者の丁寧さが表れると思っています。
お客様の立場からできる備えもあります。見積もりに来た担当者が敷地の隅々まで見て回らないようであれば、「ここにタンクがあるんですけど」「物置の裏も見てもらえますか」と、遠慮なく声をかけていただいて構いません。移動が必要になりそうなものがあれば、それだけで工事当日の段取りがずいぶん変わってきます。
弊社では加盟店の担当者に対して、現地調査時は敷地の裏側や側面まで必ず一周する、動かせないものは事前に写真で記録しておく、というお願いをしています。当たり前のようで、現場が立て込んでいるとつい省略されがちな一手間なんですよね。
外壁塗装はどうしても壁や屋根といった「建物そのもの」に目が向きがちです。ですが実際に工事が始まると、庭やベランダ、駐車スペースといった暮らしの延長線上にあるものすべてが、多かれ少なかれ影響を受けます。雨水タンクはその一例に過ぎません。
業界に身を置いて20年になりますが、良い現場ほど「建物」だけでなく「暮らし」まで見ている担当者が多いように感じています。工事が始まってから慌てないために、小さなことでも気になる点は遠慮なく伝えていただきたいと思っています。