外壁塗装の値引き交渉は、それ自体が悪いわけではありません。
最初から利益を大きく乗せている業者が存在するのは、残念ながら事実です。だからこそ、相見積もりで相場を把握したうえで「他社ではこの金額でした」と伝えるのは、ひとつの方法だと思っています。でも問題になるのは、適正な価格で誠実に組まれた見積もりを、無理に引き下げさせてしまうケースです。「安くしてください」と言えば、業者側はどこかで帳尻を合わせるしかありません。その「帳尻合わせ」が数年後の後悔につながることを、私は幾度となく目にしてきました。
業界に身を置いて10年ほど経ったころ、あるお客様のことが今でも頭に残っています。丁寧に相見積もりを取られて、気に入った業者さんを見つけたものの、「あと1割だけ下げてもらえたら即決します」とおっしゃっていました。業者さんも頑張って応じてくださり、契約が成立しました。
工事は無事に終わり、お客様も喜んでいらっしゃいました。
ところが数年後、「外壁がところどころ剥がれてきた」というご連絡をいただいたのです。直接の原因を断定することはできません。ただ、その業者さんとその後に話す機会があったとき、「あの現場は、なかなかきつかったです」という言葉がぽろっと出てきました。適正ギリギリのところをさらに削られた分、どこかに無理が出ていたのかもしれない——そう思うと、私には何とも言えない気持ちが残りました。お客様に値引きを勧めたわけでも、止めたわけでもない立場ではあったのですが、「もう少し早くこの話をしておけたら」と感じたのを覚えています。
外壁塗装の工事費用を後から圧縮しようとするとき、業者が調整しやすい箇所がいくつかあります。
まず塗料の使用量です。適切な厚みで塗るには、一定量の塗料が必要です。ただ、塗料を薄めたり塗布量を減らしたりすることで材料費を抑えることができてしまう。完成直後はほとんど見た目では分かりません。
もうひとつは、下地処理の丁寧さです。高圧洗浄後のひび割れ補修や旧塗膜の除去など、「見えない工程」に時間と手間をかけるかどうかは、業者の裁量に委ねられる部分が大きい。余裕のなくなった現場では、ここが省かれやすいのです。どちらも工事の数年後から症状として現れることが多く、その頃には原因を特定するのが難しくなっています。
前職でたくさんのお客様を見てきて、ひとつ気づいたことがあります。
工事後に満足してくださっているお客様は、値引きを勝ち取った方よりも、「この金額で何をやってもらえるか」を丁寧に確認した方が多かったのです。「下地処理はどこまでしてもらえますか」「この塗料を選んだ理由を教えてください」という質問を重ねた方。価格の根拠を聞くことで、業者の誠実さも伝わってくるんですよね。値引きを求めることで生まれる緊張感より、「なぜこの値段なのか」を一緒に確認していく会話のほうが、双方にとって後々気持ちのいい関係になることが多いと感じています。
安い金額で無理をさせるより、適切な金額でしっかり働いてもらう——当たり前のことなのですが、これが外壁塗装では特に大切なのです。
弊社では、お客様に「比較してから決めてください」とお伝えしています。値引き交渉の前に、まず複数の見積もりを並べて、内容と価格の両方を見ていただく。そうすることで、「この業者は相場より高い」「この業者の安さには理由がある」という判断が、自然とできるようになってきます。
見積もり書を比べるときに見てほしいのは、金額だけでなく「塗料のメーカーと品番」「工程の内容」「面積の計算根拠」が書かれているかどうかです。これらが明記されている業者は、後から「言った言わない」が起きにくい。逆に「一式」という言葉だけで金額が出てくる見積もりは、どこが削られているか分からない怖さがあります。見積もりを読む力が、値引きを要求するより、ずっとお客様を守ってくれると私は思っています。