外壁塗装の工事を終えたお客様から、こんなご相談を受けることがありました。「工事後しばらくして塗膜の状態が気になってきたのだけれど、何の塗料を使ったかが分からなくて」というものです。見積書はお手元にあるのですが、そこに書かれているのは「外壁塗装工事一式」といった大まかな記述だけで、使用する塗料のメーカーや品番、塗り回数の明細がなかった、というケースが何件もありました。
塗装仕様書というのは、どの部分にどのメーカーのどの塗料を、何回塗るか、どんな工法で施工するか、といった内容を部位ごとに細かく記載した書類のことです。業者によっては「施工仕様書」と呼ぶこともあります。見積書とは別に発行されることもあれば、見積書の中に組み込まれている場合もある。受け取っているつもりでいたけれど、実はほとんど内容が書かれていなかった、というお客様も少なくないんですよね。
前職でマッチング業務をしていた頃のことです。工事完了後にお客様からご連絡をいただいて、担当の業者に確認しようとしたとき、仕様書が存在しなかったためにやり取りが難航した案件が、今でも記憶に残っています。
埼玉県のあるお客様でした。工事後1年ほどで一部の塗膜が浮いてきたとご連絡をいただいたんです。業者側は「適切に施工した」と言う。お客様は「でも何を塗ったのかも分からない」とおっしゃっていて。こういうとき、仕様書があれば使用塗料の品番から乾燥時間の条件、下地処理の内容まで照合できるのですが、口頭での説明しか残っていないと、どちらの言い分が正しいのか確かめるすべがなくなってしまうんですよね。解決までずいぶん時間がかかって、お客様には本当に申し訳ない思いをしました。あのとき最初の段階で書面として仕様を残す仕組みが整っていれば、と今でも考えることがあります。
トラブルが起きたときの証拠、というだけが仕様書の役割ではありません。
たとえば工事が終わって数年後、次の塗り替えを考えるタイミングになったときにも役立ちます。前回どの塗料を使ったかが分かっていれば、塗料の相性を考慮した提案を受けやすくなります。また、保証書と仕様書が揃っていると、何かあったときに業者へ問い合わせる際の根拠が明確になります。「あのときこう言っていた」という水掛け論ではなく、「この書類にはこう記載されている」という話し方ができると、その後のやり取りの質がずいぶん変わってくるものなんですよね。
それから、仕様書をきちんと作成して提出してくれる業者というのは、それ自体がひとつの信頼の手がかりになると思っています。書面に残してくれる業者と、口頭だけで進めようとする業者では、仕事への向き合い方が自ずと見えてくるものです。
塗装仕様書は、契約前の見積もりの段階で一緒に出してもらうのが理想的です。複数の業者から見積もりを取る際に「仕様書もいただけますか」とひと言添えるだけで、各社の提案内容を比べやすくなります。
確認しておいてほしい項目を挙げると、使用塗料のメーカー名と品番、各部位(外壁・屋根・付帯部など)ごとの塗り回数、そして下地処理の内容あたりが中心になります。品番が書かれていれば、後からメーカーの資料で仕様を調べることもできますし、10年後に次の業者へ引き継ぐときの参考にもなります。「塗料の品番を書面で教えていただけますか」というひと言を自然に言いやすい雰囲気かどうか、それ自体も業者を見きわめるときの目安のひとつになると思っています。
書類をお願いするのが難しい状況であれば、工事中に使っている塗料の缶をスマートフォンで写真に撮っておく方法もあります。品番やメーカー名はラベルに記載されているので、後から調べる手がかりになります。施工写真をお願いするのと同じように、小さなひと手間で手元に残せる情報があるということを、知っておいていただければと思っています。