前職でマッチング管理をしていた頃のことを、今でも思い出すことがあります。
埼玉県のある施主さんから、工事が終わってひと月ほどたった頃にお電話をいただきました。「同じ家で別の業者に見積もりを取ってもらったら、面積が全然違うんですが」というご相談でした。施工時の見積もりと後から取った別業者の見積もりを並べてみると、塗り面積の数字が30㎡以上も違っていたんです。外壁の塗り面積は、窓やドアの部分を差し引いて算出するのが一般的です。業者によって計算方法に多少のばらつきがあることは確かですが、30㎡という差は、誤差の範囲とは言えません。業者の方に確認を取ったところ「窓の控除を少なめにした」という返答が返ってきました。
そのお客様は「見積もりの合計金額しか見ていなかった。面積の欄まで確認しようとは思わなかった」とおっしゃっていました。損をしてしまった事実よりも、気づけなかったことが悔しい——そうおっしゃっていたのが、私には長く印象に残っています。
外壁塗装の費用は、塗る面積をベースに計算されます。材料費も施工費も、㎡あたりの単価に面積を掛けた形になることがほとんどです。面積が10㎡変わるだけで、最終的な金額は数万円単位で動くことがあります。
ところが、見積書を受け取ったとき、多くの方は合計金額だけを見てしまいます。「A社は○○万円、B社は○○万円、だからB社が安い」という判断になってしまう。でも、その面積がそもそも違っていたら、比べること自体が成り立っていないんですよね。金額の差が業者の頑張りの差なのか、面積の計算の差なのかが分からないまま、大きな決断をしてしまうことになります。
業者によって面積の算出方法が違うことは確かで、「外周×高さ」の係数をどう取るかだけでも10㎡前後は変わってきます。意図的に数字を増やす業者がいる一方で、単純な計算ルールの違いでズレが生じることもある。どちらにせよ、お客様にとっては「なぜ数字が違うのか」が分からないまま——というのが一番困るところだと思っています。
相見積もりを取るとき、ぜひ試してほしいことがあります。「塗り面積は何㎡で計算されていますか」と、一社ずつ聞いてみることです。
もし業者によって数字が大きく違うなら、なぜ違うのかを教えてもらう。面積を揃えたうえで単価を比べると、見積もりの内容がずっとクリアになります。「そんな細かいことを聞いてもいいのか」と遠慮される方も多いのですが、これは当然の確認です。きちんとした業者であれば、計算の根拠を丁寧に説明してくれるはずです。逆に、面積について聞かれると困るような雰囲気を出してくる業者は、私の経験上、工事の内容についても同じように説明できないことが多い印象があります。
業界に身を置いて二十年近く経ちますが、「面積の話をしたら急に態度が変わった」という報告を何件かいただいてきました。それだけで全てを判断することはできませんし、感情的になる業者が全て信頼できないとは言い切れません。ただ、お客様の素朴な疑問にきちんと向き合えるかどうか、そこに業者の姿勢は出ると思っています。
外壁の面積は、ある程度ご自身でも計算できます。難しい話ではありません。
建物の外周に軒の高さを掛けたものがベースになります。そこから窓や玄関ドアの面積を引く、というのが基本的な計算です。設計図や仕様書があればより正確になりますが、なくてもメジャーで測った概算があれば業者の数字と照らし合わせることができます。厳密に一致させる必要はありません。「業者の出してきた面積がざっくり合っているかどうか」を確認できれば十分です。
前職の経験を振り返ると、自分でも計算してみたお客様は、見積もりの内容について業者と対等に話せるケースが多かったように思います。知識があるというだけで、関係性が変わる。それが業者への適度な緊張感にもつながるんですよね。「塗装のことは分からないから」と最初から諦めてしまう方ほど、少し調べてみるだけで景色が変わることがあります。私はそういうお客様を一人でも増やしたいと思って、こうした情報をお伝えし続けています。