前職時代、岐阜県のお客様から「増築した部分の外壁だけ、心なしか色が浮いて見える」というご相談をいただいたことがあります。最初は光の当たり方の問題かと思っていたのですが、実際に現場へ伺ってみると、確かに継ぎ目を境に色味がわずかに違うんです。しかも、同じ塗料メーカーの、同じ色番号を使っていたにもかかわらず、でした。
業者に確認してもらったところ、増築部分の塗装に使われた塗料が、以前とは別の製造ロットのものだったことが分かりました。塗料は工場で顔料を調合して作られるため、同じ色番号であっても、作られたタイミングが違うとごくわずかに色味が変わることがあるんですよね。人の目ではほとんど分からない差のこともあれば、日差しの角度によってはっきり出てしまうこともある。あのときのお客様の「言われてみれば、確かに違う…」という声を、今でも覚えています。
外壁一棟分の塗装には、想像以上にたくさんの塗料缶が必要です。見積もり段階で計算した缶数どおりに収まればいいのですが、下地の傷みが想定より大きかったり、塗り重ねの回数が増えたりすると、途中で塗料が足りなくなることがあります。そこで慌てて追加発注をかけると、届くのは前回とは別のロットの塗料、ということが起こり得るわけです。
誠実な業者であれば、あらかじめ余裕を持った缶数を発注しておいたり、複数缶の塗料を大きな容器にまとめて攪拌(かくはん)してから使うことで、多少のロット差を目立たなくする配慮をしてくれます。逆に、そうした手間を惜しむ現場では、届いた塗料をそのまま順番に使ってしまい、結果として色ムラという形でお客様の目に触れてしまうんです。
先日も、似たようなご相談を受けました。屋根付近の一面だけ、他の壁より若干くすんで見えるというお話でした。工事は無事に終わり、代金も払い終えたあとに気づいたそうで、業者に相談しても「経年劣化の範囲内です」と言われてしまい、それ以上どうにもできなかったとおっしゃっていました。
契約時に「同じロットの塗料で揃えてもらえますか」という一言があれば、業者側も缶数に余裕を持って発注してくれたかもしれません。私も前職で数えきれないほどの見積書を見てきましたが、色番号までは書いてあっても、ロットについて触れている見積書にはほとんど出会ったことがないんです。業界の中では当たり前すぎて、あえて説明されない部分なんですよね。
難しい専門知識は要りません。契約前に「使用する塗料は、できる限り同じロットで揃えてもらえますか」と聞いてみるだけで、業者の姿勢が見えてくると思います。ここで「大きい容器にまとめて混ぜておきますね」といった具体的な返答が返ってくる業者は、色ムラに対する意識が高いところが多い印象です。
また、工事完了後の確認は、晴れた日の順光だけでなく、曇りの日や夕方の斜めの光でも壁全体を眺めてみてほしいと思います。色ムラは、光の角度によって見え方が大きく変わるものなので。足場が外れる前、まだ近くで確認できるうちに、気になる箇所があれば遠慮なく業者に伝えてください。