前職にいた頃、静岡県のあるお客様からお電話をいただいたことがあります。「15年もつと言われた塗料なのに、南側の壁だけもう色が抜けてきた。まだ8年なんです」と。電話口の声は、怒っているというより、どこか悲しそうでした。
現地の写真を見せていただくと、たしかに南面と西面だけが白っぽくなっていました。北側はまだ艶が残っています。同じ家、同じ塗料、同じ日に塗った壁なのに、です。
このお客様は、手抜き工事をされたわけではありませんでした。営業さんが言った「15年」という数字が、どんな条件で出されたものなのか。そこを誰も説明していなかったんですよね。
塗料メーカーが出している耐用年数は、多くの場合「期待耐用年数」と呼ばれるものです。促進耐候性試験という、強い光や水を当てて劣化を早める試験の結果などをもとにした目安なんです。
試験室のなかの塗膜と、実際のお宅の壁とでは、置かれている環境がまったく違います。一日じゅう西日が当たる面。雨が吹き込みやすい角。湿気がこもる北側の裏手(ここは苔が出やすいです)。下地のサイディングがどれくらい傷んでいたかや、職人がどれだけ丁寧に下塗りをしたかでも、もちは変わってきます。
ですから、カタログの数字は嘘ではありません。ただ「どんな家でも、どの面でも、その年数もつ」という約束ではないのです。
私も業界に入ったばかりの頃は、ここまで分かっていませんでした。数字をそのまま伝えてしまったこともあって、今思うと申し訳ない気持ちになります。
見積もりのときに年数を言われたら、「それは、うちの家だとどのくらいになりそうですか」と聞いてみてください。
この質問への答え方で、業者の姿勢がよく見えるんです。「日当たりの強いこちらの面は、少し早めに傷むかもしれません」「下地の状態を見ると、このくらいで一度点検したほうが安心です」と、お宅に合わせて話してくれる担当者もいます。反対に、「メーカーが15年と言っているので大丈夫です」としか返ってこないこともあります。どちらに任せたいかは、言うまでもないと思います。
もうひとつ、保証の年数と耐用年数は別物です。「15年もつ塗料」でも、保証書に書かれているのは5年や7年ということは珍しくありません。この差がどこから来るのかも、契約の前に聞いておくと安心です。
先日、弊社にご相談をくださった千葉県のお客様は、最初に「一番長持ちする塗料はどれですか」と聞かれました。
お話を伺っていくと、本当に気にされていたのは「次の塗り替えまで、もう家のことを心配したくない」ということでした。そのお気持ちはとてもよく分かります。
ただ、そういう方にこそ、数年ごとに壁の様子を一緒に見てくれる業者を選んでほしいんです。早めに気づけば、傷んだ一面だけの補修で済むこともあります。何年ももつ塗料を選んで何年も放っておくより、点検を続けたほうが、結果として家は長持ちしやすい。そう感じる場面を、私はこれまでたくさん見てきました。
数字は安心材料のひとつです。そのうえで、数字だけで決めないでいただけたら、と思います。