外壁塗装に使う塗料は、缶から出してそのままの状態で塗るわけではありません。水性塗料ならば水、溶剤系ならシンナーなどの薄め液で一定の割合に希釈してから使います。これは正しい施工の手順であり、各塗料メーカーも品番ごとに適正な希釈率を指定しています。
ただ、その「メーカー指定の範囲」を超えて薄めすぎてしまうと、話が変わってきます。顔料と樹脂の濃度が下がり、乾燥後の塗膜が薄くなる。下地への密着力も落ちます。見た目は仕上がったように見えても、数年後に早期の剥がれや色あせが出やすくなるんですよね。問題の厄介なところは、塗りたての段階ではほぼ気づけないことです。
私が業界に入って数年経ったころの話です。施主の方から「塗装が終わってまだ2年なのに、外壁がぺりぺりと剥がれてきた」というご連絡をいただいたことがありました。
現場の写真を拝見して、最初は下地処理に問題があったのかと思いました。でも、施工時の記録や担当職人さんへのヒアリングをたどっていくと、使用した塗料の希釈が適正範囲を大きく超えていた形跡があることが分かってきて。その業者の職長さんも「現場の管理が行き届いていなかった」と頭を抱えていたのを、今でも覚えています。
施主の方にとっては、どんな事情があっても「2年で剥がれた外壁」という事実は変わらない。お詫びの場に同席させていただいたとき、「なぜ気づけなかったんだろう」とおっしゃっていたことがずっと心に残っています。でも、それは気づけなくて当然なんです。職人さんが塗料を希釈しているその場面を見ていたとしても、それが適正な濃度かどうかを判断するのは、専門知識がないとまず難しい。
意図的なケースと、そうでないケースと、両方あります。
悪質な例で言えば、塗料の使用量を減らしてコストを下げるためです。薄めれば同じ缶でより広い面積を塗れるようになる。施主の方には見えにくい部分なので、そこで利益を出そうとする業者が一部いることは、業界に長く関わってきた者として否定できません。一方、悪意のないケースとしては、気温や湿度に合わせた微調整のつもりが適正を超えてしまったり、経験の浅い職人さんが正しい希釈率を把握しきれていなかった、ということもあります。
いずれにしても、結果として施主の方が損をするという点では変わりません。そして特に厄介なのが、問題が表面化するのが数年後になりがちなことです。工事が終わった直後はきれいに見えてしまう。「後から気づく」という構造上のつらさが、ずっと引っかかっています。
完全に防ぐのは難しい面もありますが、知っておいてほしいことがあります。
まず、使用する塗料のメーカーと品番を、契約前に書面で確認しておくことです。「シリコン系」という分類だけでなく、できれば具体的な商品名まで押さえておく。そのうえで、工事中に現場を訪れたとき、実際に使っている塗料缶の商品名が一致しているかを確認してみてください。全工程を見届けることは現実的ではありませんが、職人さんに声をかけながら缶を見せてもらうだけで、「この施主さんはちゃんと見ている」と伝わります。それだけで現場の緊張感が変わることは、私の経験から確かに感じています。
工事前の段階であれば、「塗料の希釈はメーカー指定の範囲で管理していただけますか」と一言確認してみることも、業者の誠実さを見極めるひとつの材料になります。当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、それを自然に受け止めて丁寧に答えてくれる業者と、少し言葉に詰まる業者では、やはり差があると感じてきました。聞きにくいな、と思う気持ちもよく分かります。でも、施主の方が自分を守るためにできることのひとつとして、ぜひ覚えておいてほしいのです。