前職で窓口をしていた頃、こうしたご相談は年に数件あるかないかでした。けれど独立してからは、シンガポールやドイツ、アメリカで働くお子さんから、実家の外壁について問い合わせをいただくことがはっきりと増えたなと感じています。
新潟県のご実家に一人でお住まいのお母様のために、ドイツ在住の息子さんからご連絡をいただいたことがありました。「母は業者の言うことを疑わずに聞いてしまうので、一度こちらで内容を確認したい」というご相談で、正直なところ最初は珍しい依頼だなと思っていたのですが、今ではこうしたお話をいただくたびに、離れて暮らす家族の心配の重さを感じています。
契約者は親御さん本人でも、実際にやり取りをするのはお子さんという場合、まず整理しておきたいのが委任状の範囲です。契約の締結だけを任せるのか、支払いの判断や追加工事の可否まで含めるのか。ここが曖昧なまま進むと、現場で追加が発生した時に「誰が決めていいのか分からない」という状況になってしまいます。
以前、振込先の名義がお母様のご自身の口座なのか、代理を務める息子さんの口座なのかがはっきりしないまま契約が進んでしまい、業者側も戸惑ってしまったケースがありました。委任状は形式を整えるための書類ではなく、離れた場所にいる家族の意思をつなぐための道具なんですよね。そう捉えて、最初の段階で丁寧に決めておくことをお勧めしています。
現地調査の日程調整や見積もりの説明を、時差のある相手と行うのは想像以上に骨が折れる作業です。日本が夜になる頃にようやく向こうが起きてくる、というやり取りが続くと、返信が一日単位で遅れていきます。
色決めのように急ぎでなさそうに見える判断ほど、実は工程を左右することがあります。塗料の発注タイミングが遅れて、結果的に着工が半月ずれ込んでしまったご家族もいらっしゃいました。海外送金の手数料や着金までの日数も想定より掛かることが多く、支払いのスケジュールは余裕を持って組んでおいた方が安心だと感じています。
足場が外れる前の仕上がりを、動画通話で一緒に確認していただいたことがあります。画面越しでしたが、息子さんが「思っていたより丁寧にやってもらえていて安心した」と話してくれた時のことを、今でも覚えています。
離れて暮らす家族に代わって、写真や動画で現場の状況をこまめに共有すること。契約前の疑問には第三者の立場から答えられるようにしておくこと。業界に身を置いて20年になりますが、距離があるご家族ほど、小さな不安を後回しにしないことが後悔を防ぐのだと思っています。