検査済証とは、建物が建築確認どおりに完成しているかを行政が確認した証明書のことです。前職で窓口を担当していた頃、実はこの書類の存在自体を知らないお客様のほうが多いという印象を持っていました。家を建てたときに一度目にしたきり、存在すら忘れてしまう紙なのだと思います。
忘れられないお話があるんです。ある地方都市にお住まいのお客様が外壁塗装の見積もりを依頼したところ、業者から「増築部分の検査済証を見せてほしい」と言われて困惑してしまったことがありました。聞けば、二十年ほど前にご主人が業者に頼んでサンルームを増築していたそうなのですが、その際に建築確認を取っていなかったというのです。ご本人もその経緯を詳しくは知らず、「まさか外壁を塗るだけでそんな話になるとは思わなかった」とおっしゃっていたのを覚えています。
誤解のないようにお伝えしておくと、検査済証が無いからといって外壁塗装そのものができなくなるわけではありません。外壁を塗り替える工事は建築確認の対象外であることがほとんどですので、多くの現場ではそのまま工事に進みます。
ただ、業者によっては増改築の履歴がある建物に慎重になることがあります。足場を組む際に建物の形状や図面と現況が食い違っていると、追加の確認作業が発生する場合があるからです。またリフォームローンを利用する際や瑕疵保険を付ける際に、金融機関や保険会社から確認を求められるケースも耳にします。断定はできませんが、こうした場面で書類が揃っていないと手続きが滞ってしまう、という声を複数のお客様から伺ってきました。
以前、群馬県のお客様から伺ったお話です。ご実家を相続されたとき、増築部分の検査済証が見当たらず、市役所に相談に行かれたそうです。窓口の方は親身に対応してくださったそうですが、「今から検査済証を新たに発行することはできない」と言われ、途方に暮れてしまったとお電話でお話しくださいました。結局、そのお客様は外壁塗装自体は無事に進められたのですが、「これがもし将来売却するとなったら、と思うと落ち着かない」と、工事が終わった後も気にかけていらっしゃいました。
こうしたお話を伺うたびに、外壁塗装のご相談は、家そのものと向き合うきっかけになるのだと感じます。
検査済証が手元に見当たらない場合、まずは建築確認通知書や固定資産税の課税明細書など、他の書類が残っていないか確認してみてください。役所の建築指導課に問い合わせると、台帳記載事項証明という形で当時の記録が残っているかどうか調べてもらえることもあります。
そして何より、こうした事情は包み隠さず業者へお伝えいただきたいと思っています。増改築の経緯を最初に共有しておけば、業者側も工事の進め方を落ち着いて検討できますし、後になって工事が止まってしまうような事態も防ぎやすくなります。弊社にご相談いただく際も、こうした背景があれば遠慮なくお話しいただければと思っています。