見積書には多くの場合「有効期限30日」といった記載があります。この期限そのものは業者の都合のように見えるかもしれませんが、実際には塗料メーカーの卸価格や、足場に使う鋼材の相場が変動するリスクを織り込んだものなんですよね。期限内であれば提示した金額で契約できますが、期限を過ぎてから再度見積もりを取り直すと、数万円単位で変わっていることもあります。
これは業者が儲けを増やそうとしているわけではなく、仕入れ値が実際に動いているケースがほとんどです。私も前職の時代から、この仕組みを知らずに「話が違う」と感じてしまうお客様を何人も見てきました。
長野県にお住まいのお客様から、以前こんなお話を伺ったことがあります。春先に見積もりを取り、じっくり検討してから夏の終わりに契約しようとしたところ、担当者から「申し訳ありませんが、塗料の仕入れ価格が変わってしまい、再見積もりになります」と連絡があったそうです。金額に大きな差はなかったものの、お客様は「決めていた予算が崩れるようで不安だった」とおっしゃっていました。
この方の場合、業者側がきちんと事情を説明してくれたこともあり、最終的には納得して契約に至ったのですが、事前に価格変動の可能性を知っていれば、もう少し落ち着いて受け止められたのではないかとも思うのです。
塗料の主原料には石油由来の樹脂が使われているものが多く、原油価格の動きに影響を受けます。円相場によって輸入原料のコストが変わることもありますし、物流費や人件費の上昇も価格に反映されていきます。足場に使う鋼材も同様で、世界的な需給の変化がそのまま現場の見積もりに跳ね返ってくることがあるのです。
こうした事情は、施主様からは見えにくい部分です。業者によっては、価格改定のタイミングを正直に説明してくれるところもあれば、あまり触れずに進めてしまうところもあります。私は、この違いこそが業者選びの一つの目安になると考えています。
工事の時期を検討する際は、見積もりの有効期限を確認したうえで、その期間内に契約するかどうかを判断材料にしていただきたいと思います。もし期限を過ぎてしまいそうな場合は、事前に業者へ「価格が変わる可能性はありますか」と一言尋ねておくだけでも、後から驚くことは少なくなるはずです。
また、急いで安さだけを優先して契約時期を早めるのではなく、ご自身の家の劣化状況と資金計画を照らし合わせて、無理のないタイミングを選んでいただきたいというのが、私の願いです。