前職で初めて養生に関するクレーム対応を担当したのは、業界に入って間もない頃のことです。愛知県のあるお客様から「工事が終わったら、車の屋根に白い点々がついていた」というお電話をいただきました。駐車場に停めていたご自分の車に、塗料のミストが飛んでしまっていたというご状況でした。
お客様はとても穏やかな方で、「怒っているというよりも、どうしたらいいのか分からなくて」とおっしゃっていたんです。その言葉が、今でも頭に残っています。
業者さんに確認すると、ブルーシートは玄関まわりにはかけていたものの、駐車場まではカバーが届いていなかったとのことでした。ローラーよりもスプレー式(吹き付け)の工法を使った場合は特に、想像以上に広い範囲に塗料の粒子が飛ぶことがあります。その日は少し風もあったようで、余計に飛散してしまったようでした。養生の範囲を事前に決めていれば防げたトラブルだったと、今でもそう思っています。
塗料の飛散以外にも、養生に関わるトラブルにはいくつかのパターンがあります。
エアコンの室外機もそのひとつです。外壁工事の際に室外機をシートで覆う業者さんは多いのですが、覆ったままエアコンを長時間稼働させると、熱がこもって機械に影響が出ることがあります。「工事中はエアコンの使用を控えてください」と事前に伝えてくれる業者さんと、何も言わない業者さんとでは、やはり気配りが違います。
玄関ドアや窓まわりは、塗料が入り込みやすい場所です。マスキングテープと養生シートをきちんと貼らないと、せっかく塗り替えた部分の周辺が汚れてしまうことも、複数件ありました。それから意外に見落とされがちなのが、お庭の植木や花壇です。塗料の成分によっては植物へのダメージが出ることも報告されていますので、大切にされているお庭がある場合は、着工前に業者さんと相談しておくと安心だと思います。
養生の話でどうしてもお伝えしたいのが、ご近所のお宅への配慮です。
塗料の飛散は、ご自宅の敷地内だけにとどまらないことがあります。風向きによっては、お隣や向かいのお宅の車や洗濯物、外壁にまで届いてしまったというケースが、これまでに何度かありました。弊社に相談をくださったお客様の中にも、「工事後に近所の方から苦情が来て困っている」とおっしゃっていた方がいます。業者さんがご近所への挨拶には行っていたものの、塗料飛散への対策については何も話し合っていなかったということでした。
着工前に業者さんがご近所へ挨拶に行くかどうかは大切なのですが、そこに「養生の範囲と飛散対策についての説明」が加わるかどうかも、業者さんの丁寧さを測るひとつのヒントになると思っています。
「では、どう確認すればいいの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。難しいことではないんですよ。見積もり時や着工前の打ち合わせで、「どの範囲を養生してもらえますか」と一言聞いてみるだけで十分です。
「駐車場の車はシートをかけます」「室外機はこういった方法で保護します」と答えてくださる業者さんは、施工に対しても同じように細かく気を配っていることが多いです。逆に「大丈夫ですよ」だけで終わってしまうと、少し不安になることがあります。
工事が始まってからも、毎日養生シートを張り直しているかどうかを確認してみると良いでしょう。シートを何日もそのままにしておくと、風でめくれたり、結露で内側が傷んだりすることもあります。朝に張って夕方には一部を外す、という作業を毎日きちんと繰り返してくれている業者さんは、それだけ丁寧に仕事をされているということでもあるんです。
業界に長く身を置いて、感じていることがあります。
養生をていねいにやっている業者さんは、下地処理もていねいです。塗料の希釈も適切に行います。雨が降りそうな日には工事を止めます。どれも「見えないところで手を抜かない」という姿勢から来ているように思うんですよね。
養生はお客様の目に映りやすい作業ではありません。でも、その見えにくい部分を黙々とていねいにやっているかどうかが、工事の仕上がりにもつながっていると、私はそう思っています。打ち合わせの中でほんの少し踏み込んで聞いてみるだけで、信頼できる業者さんかどうかを判断するヒントが見えてくることがあります。ぜひ参考にしていただければ幸いです。