「この外壁はメンテナンスフリーですから、もう塗り替えは必要ありませんよ」。新築時やリフォーム時に、そう説明を受けた記憶があるお客様は少なくないと思います。ハウスメーカーや工務店の営業担当者が悪気なく口にしてしまう言葉なのですが、これを文字通り受け取ってしまうと、後々かなり厄介なことになるケースがあるんですよね。
私は前職で外壁塗装の窓口業務に長く携わっていましたが、「メンテナンスフリーと言われたので何もしていませんでした」という相談を、本当にたくさん受けてきました。悪意があって放置していたわけではなく、むしろ「言われた通りにしていた」だけなのに、外壁の状態を見ると胸が痛くなることがあります。
忘れられないお話があるんです。長野県にお住まいのお客様から、ある日「外壁の一部が浮いてきているような気がする」というご相談をいただきました。伺ってみると、外壁材そのものは確かに高耐久タイプのもので、色あせもそれほど目立っていませんでした。ただ、目地のコーキングが完全に痩せてしまい、そこから水が入り込んで下地まで傷んでしまっていたんです。
お客様は新築から一度も業者に点検を依頼したことがなく、「メンテナンスフリーだから大丈夫だと思っていました」とおっしゃっていました。私はその時、「フリー」という言葉の一人歩きが、こんなにも人を安心させてしまうものなのかと、改めて痛感したのを覚えています。結果的にその現場は、外壁材の交換まで必要になってしまい、費用も工期も当初想定していたものとは大きく変わってしまいました。
誤解のないようにお伝えしたいのですが、メンテナンスフリーという言葉自体が嘘だとは思っていません。従来の窯業系サイディングに比べて耐候性の高い外壁材が増えているのは事実ですし、色あせや汚れに強い製品が開発されているのも本当のことです。
ただ、耐久性が高いことと、まったく手をかけなくていいことは、本来イコールではないんですよね。目地のコーキングやシーリングは外壁材そのものとは別の部材ですし、金属部分の留め具やパッキンにも寿命があります。外壁本体が長持ちするからこそ、逆に周辺部材の劣化サインを見逃しやすくなるという、少し皮肉な側面もあるように感じています。
私が業界に身を置いて20年近く経ちますが、塗り替えをすぐに勧めたいわけでは決してありません。むしろ、必要のない時期に塗装を急かす業者の存在に、危機感を持ってきた側の人間です。
だからこそお伝えしたいのは、「塗らなくていい」と「見なくていい」は別だということです。数年に一度、外から目地やコーキングの状態を確認するだけでも、傷みに気づくタイミングは大きく変わってきます。ご自宅の外壁材がどんな種類で、どこにメンテナンスが必要な部材が使われているのか、一度確認しておくだけでも安心につながるのではないかと思っています。