足場が組まれ、養生シートが家を覆うと、それまで当たり前だったことがそのままにはいかなくなります。洗濯物を外に干せない。窓を開けて風を通せない。玄関先に洗濯機を置いているご家庭では、乾燥機を急いで探すことになったというお話も聞きました。
前職で担当していた頃、埼玉県のあるお客様から工事開始の数日後にお電話をいただいたことがあります。「洗濯物が干せないなんて聞いていなかった」という、少し困ったお声でした。業者からすれば当然の前提でも、施主にとっては初めての工事なんですよね。そこの温度差が、小さな不満を積み重ねてしまうのだと思います。
近年は在宅で仕事をされる方も増えました。高圧洗浄の音や職人さんの足音、窓を閉め切った中でのオンライン会議は、想像以上に負担になるようです。ある方は「工事期間だけ実家に仕事道具を持っていった」とおっしゃっていました。
小さなお子さんがいるご家庭では、ベランダに出られない、庭で遊べないという制約も出てきます。ペットを飼っているご家庭ではもっと切実で、長野県のお客様からは「犬が足場の音に怯えてしまって、数日間ほとんど外に出せなかった」というお話をうかがったことがあります。忘れられないお話のひとつです。
こうした話を伺うたびに思うのは、工事の技術や価格だけでなく、暮らしへの想像力を持っている業者かどうかが大切だということです。契約前に「洗濯物はこの期間干せません」「窓の開閉はこの工程では控えてください」と、具体的な生活面の説明をしてくれる業者は、それだけ現場を数多く経験してきている証だと感じます。
逆に、価格や塗料の性能ばかりを熱心に語り、生活面には触れずに契約を急がせるような業者には、少し立ち止まってみてほしいのです。工事は数日で終わるものではなく、施主にとっては暮らしの一部を明け渡す期間でもあるからです。
工事前の説明会や案内文の中で、洗濯や換気、在宅ワーク、ペットについて一言触れているかどうか。些細なことのようですが、そこに業者の姿勢が表れるように思います。先日も相談を受けたお客様に、契約前に一度「工事中の生活について何か案内はありましたか」と聞いてみてくださいとお伝えしました。
業界に身を置いて長く経ちますが、こうした生活面の小さなすれ違いが、後々の大きな不満につながる場面を何度も見てきました。だからこそ、契約前のひとつの確認事項として、ぜひ心に留めておいていただきたいと思っています。