お客様からご相談をいただくと、たいていは壁の色や塗料のグレードのお話から始まります。それはとても自然なことだと思っています。目に入る面積が広いですし、仕上がりの印象を決めるのはやはり壁ですから。
ただ、いただいた見積書を一枚ずつ拝見していくと、会社によって扱いがばらばらになる場所があるんです。家の足元、地面から立ち上がっているコンクリートの部分です。「基礎巾木」と呼ばれることもあります。ここが工事に含まれているのか、別途なのか、それとも触らない前提なのか。書き方は会社ごとにまったく違います。「外壁一式」の中に溶け込んでいて、読んだだけでは判断できない見積書も少なくありません。
そして足場が外れたあとで、「そこは元々塗らない想定でした」と説明を受けて、はじめて気づかれる方がいらっしゃいます。
前職のとき、栃木県のお客様から梅雨明けにお電話をいただいたことがあります。今でもよく覚えているんです。
築二十年ほどの木造のお宅で、外壁塗装のときに「せっかく足場があるうちですから、足元まできれいにしましょう」と勧められ、基礎まで塗装されたそうでした。仕上がりにはご満足されていました。ところが翌年の梅雨、一階の和室の押し入れがかび臭い、畳がなんとなくしっとりする、と。ご主人が床下を覗いてみたら、湿気がこもっているように感じられたとおっしゃっていました。
原因をひとつに決めつけることはできません。その年の雨量や、庭の土の状態、換気の取り方など、条件はいくつも重なりますから。ただ、コンクリートというのはわずかに水蒸気を通す素材で、床下から上がってきた湿気が基礎の表面から抜けていくことがあります。透湿性の低い塗膜で覆ってしまうと、その逃げ道が細くなる場合があるんですね。お客様は「きれいにしただけなのに」と何度もおっしゃっていました。あの声のトーンは、電話を切ったあともしばらく耳に残っていました。
誤解のないようにお伝えしたいのですが、基礎を塗るのがよくない、という話ではありません。基礎に使う専用の材料には透湿性を考えて設計されたものがありますし、地域や立地によっては、表面を保護したほうが安心なお宅もあります。仕上がりの統一感を大切にされる方も多いです。
気にしていただきたいのは、判断の順番なんです。家の基礎の造り、床下の換気の取り方、地面と建物の高低差、庭の水はけ。こうしたものを見てから「塗る・塗らない」を決めているか。それとも「せっかく足場があるから」という理由だけで足されているか。同じ工事でも、そこが違うと数年後の暮らしが変わってくることがあります。
床下の点検口を開けて見てくれるかどうかも、ひとつの目安になると思っています。壁の話しかしない方もいますし、しゃがんで基礎の表面を手で触る方もいます。こういう小さな動作に、その会社が家全体をどう見ているかが出るんですよね。
専門知識をお客様が全部覚える必要はないと思っています。現地調査のときに、こう聞いてみてください。
「基礎はどうされますか。塗る場合はどんな材料で、塗らない場合はその理由も教えてください」
塗る・塗らないのどちらでも構いません。大事なのは理由が返ってくるかどうかです。「透湿性のあるこの材料を使います」でも、「このお宅は床下の湿気を逃がしたいので触りません」でも、理由が添えられていれば、その方は家を見て考えてくれています。「見た目の問題なので、お好みで」としか返らないときは、もう一歩踏み込んで伺ってみてもいいと思います。
あわせて、建物のすぐ際にあるコンクリート、いわゆる犬走りの状態も見ていただきたいところです。雨の跳ね返りで汚れやすく、ひびが入っていることもあります。工事に含めるかどうかは別の判断になりますが、その場でひとこと触れてくれる会社かどうかは、やはり見ていて違いが出ます。
長野県のお客様の話も書かせてください。三社で見積もりを取られて、そのうち二社は基礎の塗装を含めていました。残った一社だけが、床下の点検口を開けて確認したうえで「ここは塗らないほうがよいと思います」と説明されたそうです。
金額はその会社が一番安いわけではありませんでした。それでもお客様は、その一社に決められました。「引き算の提案をしてきたのが、その人だけだった」とおっしゃっていたのが印象に残っています。工事が終わって何年か経ったあと、足元は前と変わらないけれど、家の中は気持ちよく過ごせています、とご連絡をいただきました。
業界に身を置いて長くなりますが、足す提案より減らす提案のほうが、その会社の姿勢が見えると感じています。減らせば売上は下がりますから、言いにくいはずなんです。それを口に出してくれる方は、少なくとも家のほうを向いて話してくれています。