外壁の色を決める場面は、外壁塗装工事の中でもお客様が一番楽しみにされている時間だと思います。カラーシミュレーションの画面を見比べながら、あれこれ悩む時間そのものが工事の醍醐味だと私も感じています。
ただ、住んでいる地域によっては、その自由に見えない縛りが存在します。景観計画区域や伝統的建造物群保存地区に指定されているエリアでは、外壁の色相や彩度に基準が設けられていることがありますし、ニュータウンや分譲地の中には、開発時に結ばれた建築協定によって「屋根は落ち着いた色にする」といった申し合わせが今も生きている場所もあるんですよね。役所の窓口に出向いて初めて知ったという方も、業界に身を置いていると珍しくありません。
工事を請け負う業者の側も、必ずしもそこまで把握しているとは限らないというのが実情です。得意分野が施工技術である以上、地域の条例までカバーしきれていない業者がいても不思議ではないと思っています。
法律や条例ほど明確な形になっていなくても、自治会や近隣同士の申し合わせという、もう少し柔らかい壁もあります。長く住んでいる方同士の間で「この通りは白系で揃えている」というような暗黙の了解が根付いている住宅地は、実は珍しくありません。
施主ご本人にとっては何十年ぶりかの外壁塗装で、そうした事情を知らないまま好きな色を選んでしまうこともあります。悪気があるわけではなく、単純に情報が届いていなかっただけなんです。それでも工事が終わってから近隣との間にぎこちない空気が生まれてしまうと、住み続ける上ではつらいものがありますし、挨拶回りのときに気まずさを感じるお客様もいらっしゃいました。
前職で相談窓口を担当していた頃、忘れられないお電話をいただいたことがあります。長野県のあるお客様が、濃いネイビーの外壁色でご契約を済ませ、足場を組む直前だったときのことでした。近所の方から「このあたりは景観計画区域だから、その色だと届出が通らないかもしれない」と声をかけられ、慌てて役所に確認したところ、彩度の基準に引っかかることが分かったのです。
契約していた業者は色の再選定に付き合ってくれたものの、シミュレーションのやり直しや役所への届出調整で工事開始が数週間ずれ込みました。お客様は「楽しみにしていた色を諦めることになって、がっかりした」とおっしゃっていて、私自身、電話口で力になれなかった悔しさを今でもよく覚えています。あのとき、契約前のひと言があれば防げた話だったんですよね。
こうした行き違いを防ぐために、契約前の段階で見積もり担当者に「この地域に色の制限はありますか」と聞いてみることをおすすめしています。経験のある業者であれば、地域の景観計画や建築協定の有無を調べる術を持っていますし、分からない場合は施主自身が自治体の都市計画課に問い合わせるという方法もあります。
分譲時に配られたパンフレットや重要事項説明書の中に、建築協定について触れられている場合もあるので、押し入れの奥にしまい込んでいる書類を一度引っ張り出してみるのも悪くないと思います。手間はかかりますが、契約後のやり直しに比べれば、ずっと小さな負担で済むはずです。
私がこの話を大切にしているのは、色の制限を確認する姿勢そのものが、業者を見極める材料になると思っているからです。地域の事情を丁寧に調べて教えてくれる担当者は、他の場面でも施主の立場に立って動いてくれることが多いように感じています。
逆に、色の話になった途端に急かすような素振りを見せる業者には、少し慎重になってもいいかもしれません。工事が終わったあとも近隣との関係の中で暮らしていくのは施主ご自身ですから、その暮らしまで想像してくれる業者と出会っていただきたいというのが、私の願いです。