前職で窓口の仕事をしていた頃、埼玉県にお住まいの年配の女性からお電話をいただいたことがあります。三社から見積もりを取って、もう一社に決めた。けれど残りの二社に何と言えばいいのか分からず、一週間以上そのままにしてしまっている、というご相談でした。
「わざわざ屋根にまで上がって見てくださったのに、断るなんて失礼な気がして」。受話器越しの声が本当に申し訳なさそうで、今でもよく覚えています。
その間にも、業者さんからは「その後いかがですか」と何度か電話が来ていたそうです。出るのもつらくなって、着信が鳴るたびに胸がきゅっとなる。家をきれいにするための相談だったはずが、いつの間にか心の負担になっていたんですよね。
まずお伝えしたいのは、業者側は断られることを前提に見積もりを出している、ということです。
相見積もりが一般的になった今、見積もりを出したすべてのお宅で契約になる業者はまずありません。現地調査も見積書の作成も、営業活動の一部として織り込まれています。私も業界に身を置いて長くなりますが、きちんとした業者さんほど「ご連絡いただけて助かります」とあっさり受け止めてくれるものです。
むしろ困るのは、返事がないまま時間が過ぎること。職人さんの予定を仮で押さえていたり、次の現場の段取りを組めなかったり(小さな会社ほど、この影響は大きいんです)。ですから、断りの連絡は失礼どころか、相手への気遣いになるのだと私は考えています。
断り方に正解はありませんが、長々と理由を説明する必要はないと思います。
「検討の結果、今回は別の会社にお願いすることにしました。お時間を割いていただき、ありがとうございました」。これだけで気持ちは伝わります。電話が苦手な方は、メールやショートメッセージでもかまいません。
気をつけていただきたいのは、「金額が高かったので」と伝えたときです。すると「では、いくらなら契約いただけますか」と、そこから値引きの交渉が始まってしまうことがあるんですね。もう決めたのであれば、金額の話には触れずに結論だけをお伝えするほうが、お互いに気持ちよく終われます。
先日も、弊社にご相談くださった方から「こう言えばいいと教えてもらえて、肩の荷が下りました」とお礼のメールをいただきました。ほんの数行の文面ですが、その一歩が踏み出せずに悩んでいる方は本当に多いのだと、あらためて感じた出来事でした。
ごく一部ですが、断っても何度も訪問してきたり、「今決めてくれれば」と食い下がったりする業者もいます。
以前、千葉県のあるご主人から「断ったら急に口調が変わって、怖くなった」というお話をうかがったことがあります。そういうときは、無理に説得しようとせず「もう決めましたので」と繰り返すだけで大丈夫です。お一人で対応するのが不安なら、ご家族に同席してもらうのもひとつの方法です。
そして、こうした振る舞いそのものが業者選びの答え合わせにもなります。断ったときの態度に、その会社の本当の姿が表れることは少なくないんですよね。
弊社を立ち上げるときに考えたのは、業者を紹介して終わり、にはしたくないということでした。
お客様が比べて、選んで、選ばなかった業者に気まずい思いをせず区切りをつけられる。そこまで含めて、はじめて「安心して比べられた」と言えるのだと思っています。弊社では、お客様がご希望されればお断りの連絡を代わりにお伝えしています。あの日、電話口で申し訳なさそうにしていた女性のような方を、一人でも減らせたら。そんな気持ちで続けています。