業界に身を置いて20年。塗料の話になると、お客様は大きく二つに分かれるように感じます。とにかく安く済ませたい方と、せっかくだから一番いいものを、という方。
後者の方ほど、注意していただきたいんです。前職で初めて担当したお客様のことを、今でも覚えています。築15年のお宅で、業者さんに勧められるまま最高グレードの無機塗料を選ばれました。耐用年数が長いから、と。お気持ちはよく分かります。一度塗ったら、もう当分やりたくないですものね。
ただ、その方は数年後に転居の予定があったんです。打ち合わせの段階でそれが分かっていれば、もう少しご予算を抑えたご提案もできたはずでした。塗料は、長持ちすればするほど良い、という単純な話ではないのだと、その時に痛感しました。これからその家に何年住むのか。そこから逆算して考える視点が、抜け落ちがちなんですよね。
では何を選べばいいのか。ひとつの目安として、シリコン系の塗料が長くスタンダードとして選ばれてきた、という事実があります。
価格と耐用年数のバランスが取りやすい。だから多くのご家庭で選ばれてきたのだと思います。弊社にお寄せいただくご相談を見ても、シリコンを軸に検討される方が一定数いらっしゃる傾向がありました。
もちろん、フッ素や無機といった上位グレードには上位なりの良さがあります。塗り替えの回数を将来的に減らせる可能性がある、という考え方も、決して間違いではありません。紫外線の強い地域、海に近くて塩害が気になる地域では、上のグレードを検討する意味は十分にあると思います。要は、ご自宅の置かれた環境と、これから住む年数。その掛け算で答えが変わってくる、ということなんです。
少し意外に思われるかもしれませんが、私が現場を見ていて感じるのは、塗料のグレードそのものより「きちんと施工されているか」のほうが、塗膜の寿命を左右する場面が多い、ということなんです。
どんなに高価な塗料も、下地の処理が雑だったり、塗る回数を省かれたりすれば、本来の性能を発揮できません。先日も、あるお客様から「高い塗料を選んだのに数年で剥がれてきた」というご相談をいただきました。お話をうかがうと、原因は塗料ではなく、その手前の工程にあったように思えてなりませんでした。
カタログの数字は、あくまで適切に塗られたときの目安です。そこを業者さんがどう守ってくれるか。塗料選びと業者選びは、本当は地続きなのだと思っています。
もうひとつ、お伝えしておきたいことがあります。
カタログに書かれた耐用年数は、メーカーの試験に基づいた目安であって、お宅の壁がきっちりその年数もつことを約束するものではない、ということです。日当たり、立地、もともとの外壁の状態。条件によって、現実の持ちは前後します。
ですから「○年もちます」という言葉だけを頼りに決めてしまうのは、少しもったいないんですよね。長野県のあるお客様から、以前こんなお電話をいただいたことがあります。「耐用年数だけで選んでしまって、自分の家に本当に合っていたのか分からなくなった」と。その声が、ずっと私の中に残っています。数字は判断材料のひとつ。最後は、ご自宅の事情とすり合わせて選んでいただきたいのです。
塗料選びで迷われたら、ひとつの業者さんの言うことだけで決めない。私はいつもそうお伝えしています。
同じお宅を見ても、提案する塗料が業者さんによって違うことは、珍しくありません。それ自体は悪いことではなく、考え方の差なんです。ただ、複数の意見を並べてみると、自分の家に本当に必要なグレードが、だんだん見えてくる。そういうものだと思います。同じ思いで悩むお客様を、もう一人でも減らしたい。その気持ちで、弊社はお手伝いをしています。