マンションにお住まいの方は、毎月の管理費と一緒に修繕積立金を払っていますよね。外壁や屋上の工事は、その積立から出ていきます。
ところが戸建ての場合、その役割を担う人がいません。家を建てた時、あるいは買った時に、ハウスメーカーや不動産会社から「十年ちょっとで外壁のメンテナンスが要りますよ」と一言あったとしても、それを毎月の家計に落とし込んでいるご家庭はそう多くないんです。住宅ローンの返済、お子さんの教育費、車の買い替え。目の前の出費に押されて、外壁のことはどうしても後回しになります。私はそれを責める気持ちにはなれません。誰だってそうなんですよね。
前職で施主様と業者さんのマッチングを担当していた頃、忘れられないお話があるんです。
北関東にお住まいの、四十代のご夫婦からお電話をいただきました。外壁のひび割れが気になって何社か見積もりを取ったところ、思っていたよりずっと高い。手元の貯金を全部出せば払えなくはないけれど、それをやってしまうと来年の上のお子さんの入学金が危うい……そんなご相談でした。
結局そのご夫婦は、一番安い見積もりを出した業者さんに決めかけていました。内容をよく見ると、下塗りの工程があいまいで、付帯部もほとんど含まれていない。安いのには理由があったんです。「値段で選ぶしかないんです」と奥様が電話口でおっしゃった声を、今でも覚えています。
お金がない状態で業者を選ぶと、比べる余裕がなくなります。比べる余裕がないと、本来なら気づけたはずの違和感を見過ごしてしまう。これが一番怖いところだと、私は思っています。
難しく考える必要はありません。
まずは、ご自宅の外壁と屋根の塗り替えに、おおよそどのくらいかかりそうかを知ること。お住まいの地域や建物の大きさ、使う塗料によって幅はありますが、一度見積もりを取っておく、あるいは近所で塗り替えたお宅に何気なく聞いてみるだけでも、ぼんやりしていた金額に輪郭が出てきます。
その金額を、次の塗り替えまでの年数で割ってみてください。月にいくら取っておけばいいかが見えてきます。給与口座とは別の口座に自動で移すようにしておくと、「使ってしまった」が起きにくいんですよね。先日お話ししたお客様は、通帳の表紙に「家の口座」とマジックで書いておられました。それだけで手をつけにくくなるそうです(なるほど、と思いました)。
外壁だけでなく、給湯器や水回りなど、家には同じように「いつか来る出費」がいくつもあります。まとめて一つの口座で備えておくと、気持ちがずいぶん楽になるはずです。
手元に準備があるお客様は、相見積もりの内容をじっくり見比べられます。「この工程はなぜ入っていないんですか」と落ち着いて質問できる。業者さんの側も、そういうお客様には丁寧に向き合おうとするものです。
時期を選べるのも大きいですね。急ぐ必要がないので、天候の安定した季節を待つこともできますし、補助金の募集時期に合わせることもできます。
業界に身を置いて長くなりますが、工事の満足度を分けるのは、実は契約のずっと前、「どれだけ余裕を持って選べたか」なのだと感じています。お金の備えは、良い業者に出会うための準備でもあるんです。