外壁塗装は「塗る」だけの工事ではありません。工事の最初に、建物の外壁全体を高圧の水流で洗い流す「高圧洗浄」という工程があります。コケや藻、砂ぼこり、剥がれかけた古い塗膜——こうした汚れをきちんと除去したうえで、初めて新しい塗料が外壁にしっかりと密着してくれます。
お客様によくお伝えする言い方があるのですが、「油汚れが残ったお皿に洗剤をつけても、すぐ流れてしまいますよね。外壁も同じなんですよ」と。汚れや古い塗膜が残ったままの壁面に新しい塗料を乗せてしまうと、何年かのうちに塗膜が浮いたり、剥がれたりしてきます。高圧洗浄は美しい仕上がりのためだけでなく、塗膜を長く保つための土台づくりでもあるのです。
ところが、この工程は施主の目に触れにくい。足場の上での作業ですし、水で流してしまえば跡も残らない。「やった」「やっていない」が判断しにくいのが、この工程の難しいところなんですよね。
忘れられないお話があります。前職にいたころ、神奈川県のあるお客様から「塗り替えてまだ4年も経っていないのに、外壁のあちこちに浮きと剥がれが出てきた」というご相談をいただきました。工事をした業者に状況を確認すると、「全部ちゃんとやりましたよ」とのことでした。
ただ、工程写真を一つひとつ確認していくと、塗装中や完成後の写真はあっても、高圧洗浄の工程写真だけがひとつも残っていなかったのです。その後も細かく聞き取りを続けたところ、洗浄は一応行ったものの時間が短く、水圧も十分でなかった可能性が出てきました。乾燥が不完全なまま次の工程に進んでいたことも、否定できない状況でした。
最終的に、施主のお客様がご自身で費用を出して再塗装されることになりました。「もっとちゃんと確認しておけばよかった」とおっしゃっていたときの表情を、今でも忘れることができません。こうした事例は複数件ありました。見えにくい工程だからこそ、手を抜かれても気づきにくい。だからこそ、施主の方に少しでも意識を向けてほしいと、心から思っています。
まず確認していただきたいのは、見積書に「高圧洗浄」という項目が独立して記載されているかどうかです。「外部工事一式」とまとめられている場合、洗浄が本当に含まれているのか、含まれているとしてどの範囲をどの程度行うのか、内訳が見えません。遠慮せずに「洗浄はこの一式の中に入っていますか」と確認してみてください。
洗浄の範囲や時間の目安を聞いてみることも、参考になります。「高圧洗浄はどのくらいの時間をかけて行いますか」——このひと言だけでも、業者の対応の差が出るものです。すらすらと答えてくれる業者と、「まあ大丈夫ですよ」と流してしまう業者では、現場への向き合い方が違うと私は感じています。見積書の記載内容と質問への答え方を合わせて見ていただくと、業者を見極めるひとつの材料になると思います。
洗浄の当日は、できれば在宅していてください。
ずっと張り付いて見ている必要はないのですが、「今日の洗浄は何時ごろ終わりそうですか」とひと声かけてみるだけで、現場の空気が引き締まることがあります。「見ている施主がいる」という意識は、職人の方々の緊張感を少し高めてくれるものです。これは私が長年、現場に関わってきた中で感じてきたことです。
終わったあとは、外壁を手で触れてみてください。しっかりと洗浄されていれば、表面のざらつきや汚れの感触が、作業前とはずいぶん変わっているはずです。北面や日陰になる部分はコケが残りやすいので、特に気にして確認しておくとよいと思います。「この面は念入りに洗いました」と言葉を添えてくれる業者と、「終わりました」の一言で済ませる業者——どちらの話を聞きたいかは、きっとお分かりいただけるのではないでしょうか。工事写真として洗浄の様子を残してもらうようお願いすることも、のちのちのために有効だと思っています。