前職で13,000件以上のマッチングに関わるなかで、「艶のことは特に聞かれなかった」とおっしゃるお客様が少なくありませんでした。
外壁塗装の打ち合わせでは、色や工事日程といった話が中心になりやすいんですよね。そのなかで「艶はどうされますか」という一言が抜け落ちてしまうことがある。業者にとっては当たり前の確認のつもりでも、お客様にとってはそもそも選択肢があることを知らない場合が多いわけです。塗料の「艶」とは、平たくいえば塗り上がりの光沢感のことです。同じ色・同じ塗料でも、艶ありと艶消しでは完成後の印象がかなり変わります。ピカッと光沢のある仕上がりが好みの方もいれば、落ち着いたマットな雰囲気を求める方もいる。これは優劣の話ではなくて、好みと目的と環境によって変わる選択なんです。
忘れられないお客様がいます。前職時代に担当した、埼玉県のあるご家族のケースです。
築20年を超えたお宅で、外壁の劣化が気になって塗り替えを決断されたそうなんですね。工事自体は特に問題なく終わって、足場が取れた直後にお電話をいただきました。「きれいになったのはわかるんですけど、なんか、もとの家のイメージと少し違うんですよね」とおっしゃるんです。話を丁寧に聞いていくと、そのお宅は凹凸のあるリシン吹き付けの外壁で、もともとの少しざらついた質感をお客様はとても気に入っていらしたんです。ところが仕上がりは光沢のある艶あり塗料で、「ツルッとした感じ」になってしまっていた。業者も悪意があったわけではなくて、標準的な施工をしただけなんですよね。ただ、事前に「艶はどうされますか」という一言があれば、違う選択ができたかもしれなかった。そう思うと、今でも残念な気持ちになります。
少し技術的な話になりますが、知っておいていただくと役立つことがあります。
外壁塗料の艶には、一般的に「艶あり・7分艶・5分艶・3分艶・艶消し」という段階があります。塗料によって対応できる艶の種類は異なるため、すべての塗料でこの5段階が選べるわけではないのですが、多くの標準的な外壁塗料ではある程度の調整が可能です。艶ありは光沢が高く、表面がなめらかなため汚れが雨で流れ落ちやすい傾向があります。一方で、晴れた日には光がかなり反射して見えたり、年数が経って艶が落ちてきたときの印象の変化が大きかったりすることもあります。艶消しは品のある落ち着いた雰囲気になりやすい反面、表面の微細な凹凸に汚れや苔が溜まりやすくなることがある。どちらにもそれぞれの特性があって、一方が絶対に優れているということはないんです。
「結局どちらがいいのか」とよく聞かれるのですが、私がいつもお伝えしているのは、外壁の素材と、そのお宅の周辺環境と、お客様がどんな仕上がりをイメージしているかの3つをあわせて考えましょう、ということです。
凹凸の少ないサイディング材のお宅では、艶ありがなじみやすいことが多い印象です。一方、リシンやスタッコなど、もともと凹凸感のある外壁の場合は、艶消しや中間の仕上がりが素材の質感を活かしやすいことがあります。閑静な住宅街で落ち着いた街並みに合わせたいというご要望がある場合は、艶消しがよくなじむこともあります。先日ご相談いただいた神奈川県のお客様も、「外壁がツルツルする感じは好みじゃない」とおっしゃって、5分艶を選ばれました。完成後に「思い通りになりました」とご連絡をいただいて、こちらもとても嬉しかったんです。
業界に長く身を置いていると、「もっと早く知りたかった」というお声が本当に多いと感じます。艶の話はほんの一言で済む確認なのに、その一言がなかったために選択の機会を逃してしまうことが今もゼロではない。弊社では、お客様との打ち合わせの中で、艶のことも含めてひとつひとつ丁寧に確認するよう心がけています。こういった小さな積み重ねが、仕上がりへの満足感につながると思っているからです。