人手不足という言葉を業界紙で目にしない日はないくらいですが、実際に現場を見ていると、その穴を埋めているのは日本人の若手だけではありません。ベトナムやインドネシアから来た技能実習生、数年の実習を終えて特定技能に切り替えた方々が、下地処理やケレン作業、養生といった工程を黙々とこなしている姿をよく見かけるようになりました。
前職で現場に同行させてもらっていた頃は、こうした光景はまだ少数派でした。それが今では、職人さん3人のうち1人が外国籍という現場に出くわすことも珍しくありません。業界全体の高齢化が進む中で、彼らの存在なしには工期が組めない会社も増えているのが実情だと思います。
静岡県のあるお客様から、こんなお電話をいただいたことがあります。契約前の説明では日本人の担当者が丁寧に対応してくれたのに、実際に工事が始まると若い外国人スタッフが中心で、最初は少し戸惑ったそうです。それでも数日経つと、色見本の紙を指差しながら「ここ、これで合っていますか」と何度も確認してくれる姿勢に安心し、工事が終わる頃にはお茶を出すほど打ち解けていたと話してくださいました。
逆に、うまくいかなかった例も知っています。福島県のお客様は、養生の範囲について口頭でやり取りしたつもりが、実際には伝わっておらず、塗ってほしくない場所に塗料が飛んでしまったことがありました。後から聞くと、現場責任者が別の作業で外していた時間帯に、指示を受けていなかったスタッフが判断で作業を進めてしまったとのことでした。言葉というより、現場の情報共有の仕組みが弱かったことが原因だったのだと思います。
先日も、業界の知人からこんな話を聞きました。ある会社では、色番号や材料の指示を紙だけでなく写真とイラストで残すようにしたところ、指示違いのトラブルがかなり減ったそうです。言葉の壁というのは、実はやり方次第でかなり埋められるものなんですよね。
施主様が感じる不安を突き詰めていくと、実は言葉そのものより「誰が、何を、どこまで理解して作業しているか見えない」ことへの不安のほうが大きいのではないかと感じています。日本人の職人であっても、指示があいまいなまま作業を進めれば同じようなミスは起きます。国籍の問題として片づけてしまうのは、少し違うのではないかと思っています。
大事なのは、現場全体でどう情報を伝えているかという仕組みの部分です。翻訳アプリを使って安全朝礼をしている会社もありますし、色や範囲の指示を写真付きの指示書にして全員で共有している会社もあります。こうした工夫をきちんとしている業者かどうかは、契約前の打ち合わせで「現場での指示はどのように伝えていますか」と一言聞いてみるだけでも、ある程度見えてくるように思います。
前職時代、ある現場でベテランの日本人職人が、実習生に刷毛の運び方を根気強く教えている場面を見たことがあります。「言葉が拙くても、手元を見ればどこまで分かっているかは分かる」とその職人さんが話していたのを、今でもよく覚えています。腕の良し悪しは、結局のところ言葉の流暢さとは別の物差しで測られるものなんだと、あのとき教えてもらった気がします。
もちろん、経験の浅いスタッフだけで難しい判断を任せるのは危ういですし、責任者がきちんと目を配れているかは大切な確認ポイントです。ただ、外国籍だからという理由だけで不安を感じる必要はないというのが、数多くの現場を見てきた私の実感です。