以前、埼玉県にお住まいのご長男様から見積もりのご相談をいただいたことがありました。ご実家に住んでいらっしゃるのはご高齢のお母様で、日々の連絡はご長男様が窓口になってくださっていたのですが、いざ契約という段になって、遠方にいらっしゃる妹様から「そんな話は聞いていない」というお電話が入ったんです。
現場に立ち会う人と、費用を負担する人と、実際に住み続ける人がそれぞれ別だと、単なる言った言わないではなく「誰が決めたのか」というもう一段深いところでボタンの掛け違いが起きてしまいます。窓口となるご家族が一人に定まらないまま話が進んでしまうと、契約直前になって振り出しに戻ることも、決して珍しくありません。前職で初めてこうした場面に立ち会った時のことを、今でも覚えています。
忘れられないお話があるんです。岐阜県のご兄弟から、実家の塗装費用を折半するというお話を伺ったことがありました。お二人とも快くご了承されていたのですが、見積もりの内容を詰めていく中で、弟様の方から「もう少しグレードを下げられないか」というご相談が出てきたんです。ご家庭の事情もあってのことだったのですが、兄様の方は「実家なのだからきちんとしたものを」というお考えで、そこですれ違いが生まれてしまいました。
お金の話というのは、どうしても言い出しにくいものです。特に兄弟姉妹の間では、遠慮や気兼ねが先に立ってしまい、本音を伝えられないまま工事だけが進んでしまうこともあります。私自身、業界に身を置いて20年になりますが、こうした場面では金額よりも先に、誰がどこまで負担するのかという線引きを言葉にしておくことの方が、後々の関係を守るように感じています。
静岡県のあるお客様は、ご実家の外壁を長年住み慣れた色のまま塗り直したいとおっしゃっていました。ですがお子様たちは、将来的な売却も視野に入れて、もう少し落ち着いた色にした方がいいのではという考えをお持ちでした。どちらも間違ってはいないんですよね。ただ、家に対する思い入れの重さが、親御さんとお子様とでは違うということを、私はこの時に改めて教えていただいた気がします。
こうしたお話を伺ってきた中で、弊社では見積もりの段階から「ご家族の中でどなたが窓口になるか」を最初に確認するようにしています。打ち合わせの内容は口頭だけでなく、簡単な記録として残し、必要であればご家族全員が見られる形で共有していただくようお願いすることもあります。地味なことですが、こうした一手間があるかないかで、後々のトラブルの起きやすさが変わってくる傾向がありました。
実家の外壁塗装というのは、単なる建物の工事ではなく、家族それぞれの思い出や考え方が交わる場面でもあります。弊社としても、そこに関わらせていただく以上、工事の質だけでなく、ご家族の間に無用なわだかまりを残さないお手伝いができればと考えています。