外壁塗装に使われる塗料のほとんどは、一定の気温と湿度の範囲内でないと、きちんと乾燥・硬化しません。塗料メーカーの仕様書を見ると、「気温5℃以下の環境、または湿度85%以上の場合は施工を避けること」といった記載があることが多いです。
塗料は壁面に塗られた後、化学反応によって薄い膜を形成していきます。この反応が低温や高湿度によって妨げられると、塗膜の硬化がうまく進まない。そうなると、数ヶ月・数年後に塗膜が膨れたり、剥がれてきたりするリスクが生まれるんですよね。「工事が終わったときは綺麗だったのに」というお声の裏側に、こうした環境要因が隠れていることがあります。
もちろん、良心的な業者であれば「今日は湿度が高いので工程を一日ずらしましょう」と自ら判断してくれます。ただ、お客様が工期を急かしていたり、業者側のスケジュールが立て込んでいたりすると、そういった判断が鈍くなることも、残念ながらゼロではありませんでした。
今でも印象に残っているご連絡があります。関東にお住まいのお客様から、「梅雨明けを待つつもりだったのに、業者から『雨の合間を縫えば大丈夫ですよ』と言われて、6月中旬から工事を始めてしまった。半年後に南側の壁に小さな膨れが出てきた」というお話でした。
その業者が悪意を持っていたとは思いません。ただ、お客様にとって一番つらかったのは、「梅雨時期に工事することへのリスクを、事前に一切説明されなかった」ということでした。「ちゃんと教えてもらっていたら、梅雨明けまで待ったのに」——その言葉は、聞いていて胸に刺さりました。
膨れの原因がすべて施工時期にあるとは言い切れませんし、逆に梅雨時期でも丁寧に管理して仕上げてくれる業者もいます。ただ、「リスクを理解した上で選ぶこと」と「何も知らずに進んでしまうこと」は、まったく違う話だと思っています。
梅雨だけでなく、真夏や真冬にも注意したい点があります。
夏の炎天下では、外壁の表面温度が非常に高くなります。高温の壁面に塗料を塗ると急速に乾燥しすぎて、塗りムラが出やすくなることがあります。日当たりの良い面と日陰になる面で乾燥速度が変わるため、職人さんの経験と判断が仕上がりに直結しやすい季節です。以前担当した相談の中に「夏に工事したけれど、仕上がりが部分によってざらついている感じがする」とおっしゃっていたお客様がいて、現地の写真を確認したとき、真夏の急速乾燥が影響していたことがありました。
真冬については、関東以南の温暖な地域では日中の気温が十分あれば問題なく施工できることも多いです。ただ、東北や北海道、内陸の標高が高い地域では気温が5℃を下回る日が続くこともあります。「冬に急いで工事をお願いしたら、春になってから塗膜の状態が気になってきた」というお声を複数いただいたことがあります。地域によって、季節の影響の出方は大きく変わるんですよね。
「では、いつが一番いいんですか?」とよく聞かれます。気温が安定していて湿度の低い日が続きやすい春(3〜5月ごろ)と秋(9〜11月ごろ)は、工事環境が整いやすい傾向にあります。ただ、その年の気象や地域によって変わりますし、「この時期しかできない」というわけでもありません。
私がお伝えしたいのは、「施工時期のリスクについて、見積もりをもらうときに業者と話してみてほしい」ということです。「この時期に工事することで気をつけることはありますか?」という一言を投げかけてみてください。そこで丁寧に説明してくれる業者は、工事そのものへの姿勢も誠実である可能性が高いと思っています。
業界に身を置いて長い年月が経ちますが、施工後のトラブルのご相談で「時期や天候のことは考えていなかった」とおっしゃるお客様は、今も少なくありません。事前に知っていただくだけで、防げることがあります。