弊社を創業してから丸一年ほど経ちますが、確定申告の時期が近づくたびに、賃貸アパートやマンションを所有されているオーナー様から同じような質問をいただくようになりました。「外壁塗装にかかった費用って、今年の経費として計上していいんでしょうか」というものです。
前職で「外壁塗装の窓口」に勤めていた頃は、施主様の大半がご自宅にお住まいの方だったこともあり、この手のご相談はそれほど多くありませんでした。ただ独立してから賃貸オーナー様や不動産投資をされている方とお話しする機会が増え、外壁塗装が単なる「家のメンテナンス」ではなく「事業の経費」として扱われる場面があるのだと、あらためて実感するようになったんです。塗料の色や工法のご相談とはまったく違う種類のご質問で、最初は少し戸惑ったのを覚えています。
税務の世界には、支出した費用をその年に一括で経費にできる「修繕費」と、資産の価値を高めたとみなされ数年にわたって少しずつ経費化していく「資本的支出」という考え方があります。外壁塗装のように劣化した部分を元の状態に戻すための工事は修繕費として扱われることが多いのですが、耐久性の高い塗料に変更したり、断熱性能を上げるような仕様を選んだりすると、資本的支出に該当すると判断されるケースも出てきます。
この判断は最終的に税理士や税務署がおこなうものであり、弊社のような施工会社が「これは修繕費です」と断言できる立場にはありません。ただ、見積もりの段階でどんな工事にどれくらいの費用がかかっているのかが曖昧なままだと、後になってオーナー様と税理士の間で「これは何のための費用だったのか」を確認する作業に、思いのほか時間がかかってしまうことがあるようなんです。同じ工事でも、書類の残し方次第でその後の手間がまるで変わってくるというのは、この仕事を始めてから知ったことのひとつでした。
忘れられないお話があるんです。長野県で複数のアパートを所有されているオーナー様から、確定申告の直前にお電話をいただいたことがありました。前年に別の業者で外壁と屋根の塗装工事をされたのですが、見積書には「外壁塗装工事一式」としか書かれておらず、税理士から「この一式の中に、資本的支出にあたる部分が含まれていないか、内訳を出してもらえますか」と言われて困っているとのことでした。
工事を担当した業者に問い合わせても「まとめて契約したので分けられない」という返事だったそうで、結局そのオーナー様は想定していたよりも慎重な処理をせざるを得なくなったと話されていました。工事そのものに問題があったわけではないのですが、見積書の作り方ひとつで後になってこれほど手間がかかるものかと、私自身も考えさせられた出来事でした。電話越しの声のトーンに、疲れがにじんでいたのを今でも覚えています。
この一件があってから、弊社では見積書を作成する際、足場や高圧洗浄といった共通の工事と、外壁・屋根それぞれの下地補修や塗料の項目を、できるだけ分けて記載するようにしています。すべてのケースに万能な方法というわけではありませんし、税務上の判断はあくまで税理士にご確認いただくようお願いしているのですが、内訳が残っていることで後からの相談がしやすくなったというお声はいただくことがあります。
業界に身を置いて20年近くになりますが、外壁塗装を「工事」としてだけでなく、オーナー様にとっての「事業の一部」として捉える視点は、この仕事を始めるまであまり意識してこなかったものでした。塗装のご提案と同じくらい、見積書という書類そのものにも、お客様の暮らしや事業を支える役割があるのだと、今は感じています。数字の裏側にある暮らしを想像しながら、これからも書類ひとつひとつと向き合っていきたいと思っています。