業界に身を置いて20年になりますが、塗装が終わったあとのご相談で意外と多いのが、お金や仕上がりの話ではなく「お隣との関係がぎくしゃくしてしまった」というものなんです。自分の家を綺麗にしただけなのに、どうしてそんなことに、と思われるかもしれません。
でも、外壁塗装って、想像以上にお隣を巻き込む工事なんですよね。足場を組む音、高圧洗浄の水しぶき、塗料の独特なにおい、業者さんの車の出入り。普段は意識しない「お互いの家の距離の近さ」が、工事の二週間ほどで一気に表面化するんです。
前職で初めて近隣クレームの対応を担当した時のことを、今でも覚えています。神奈川県のあるお客様から「お隣の奥さんが口をきいてくれなくなった」とお電話をいただいたんです。話を伺うと、高圧洗浄の日にお隣の洗濯物が濡れてしまい、それを誰も一言も詫びなかった、と。
金額にすれば、洗濯のやり直し一回分かもしれません。けれど、ご本人にとっては「自分の暮らしを軽く扱われた」という感情が残ってしまうんですよね。塗料そのものより、その「一言があったかどうか」で、後の何年もの空気が変わってしまう。これは数字には絶対に出てこない部分です。
先日も似たご相談がありました。工事自体はとても綺麗な仕上がりだったのに、近隣への挨拶を業者さん任せにしてしまい、施主さんご自身は最後まで顔を出さなかった。それで「あの家は何も言ってこなかった」と陰で言われてしまった、という話でした。仕上がりが良いだけに、なんとも、もったいないお話だなと思いました。
多くの良い業者さんは、着工前にご近所へ挨拶回りをしてくれます。それはとてもありがたいことなんです。ただ、私がお客様にお伝えしているのは、できれば施主さんご自身も、一度はお隣に顔を出してほしい、ということなんですよね。
業者さんが渡すのは、あくまで「工事を行う側」としての挨拶です。でも、お隣にとって長く付き合っていくのは業者さんではなく、施主であるあなたです。「ご迷惑をおかけします」の一言を、住んでいる本人の口から聞けるかどうか。受け取る側の気持ちは、まるで違ってくるんです。
難しいことは何もいりません。タオル一枚でも添えて、「来週から二週間ほど、足場が立って音やにおいが出ます。すみませんがよろしくお願いします」。それだけで、ほとんどの行き違いは起きないんです。むしろ、終わったあとに「綺麗になったね」と声をかけてもらえた、というお礼の電話をいただくことの方が、実は多いくらいで。
もうひとつ、見落とされがちな視点があります。それは、業者を選ぶ段階で「ご近所への配慮があるかどうか」を見ておく、ということです。
見積もりや打ち合わせの時に、足場をいつ組むのか、洗浄の水や塗料の飛散をどう養生するのか、車はどこに停めるのか。こうした「お隣に関わる部分」を、こちらが聞く前に説明してくれる業者さんは、現場でも丁寧なことが多い印象があります。逆に、そこを尋ねても曖昧にしか答えない一部の業者さんには、少し慎重になっていただきたいなと思うんです。
家を綺麗にするための工事で、長年のご近所付き合いに傷がついてしまっては、本末転倒ですから。仕上がりの美しさと同じくらい、近隣への目配りができるかどうかを、ひとつの物差しにしていただけたらと思っています。