前職で見積もりの内訳を説明する仕事を担当し始めたころ、恥ずかしながら「諸経費」という項目を軽く扱っていた時期がありました。工事費の総額さえ合っていれば大きな問題にはならないだろうと、どこかで思っていたんですよね。今思えば、お客様の側に立ち切れていなかったのだと思います。
ところがある年、長野県のお客様から工事が終わったあとにお電話をいただきました。「廃材の処分費が別途かかると聞いていない」というお話でした。契約書には確かに小さく書かれていたのですが、口頭での説明が足りていなかったのです。電話口の少し困ったような声を、今でも覚えています。金額はそう大きくなかったのですが、「聞いていなかった」という一点だけで、お客様の心には工事全体への不信感が残ってしまいました。あの経験があって、私は見積書の「諸経費」という言葉を、それまでとは違う目で見るようになりました。
外壁塗装の見積書は、大きく分けると「本体工事費」と「諸経費」に分かれることが多いです。本体工事費は塗料代や施工費、足場代などが含まれますが、諸経費に何を含めるかは業者ごとに判断が分かれます。廃材の処分費、現場までの交通費や駐車場代、仮設トイレのレンタル費、近隣へのご挨拶で使う品物代まで、諸経費という一言でまとめられているケースを何度も見てきました。同じ「諸経費一式」という表記でも、業者によって中身がまったく違うことも珍しくありません。
この線引きが曖昧なまま契約してしまうと、工事が終わったあとに「これは別料金です」と言われて戸惑う流れになりやすいのです。業者側に悪意がなくても、説明のタイミングを逃してしまえば、お客様にとっては「あとから言われた」という印象だけが残ってしまいます。同じ業者、同じ工事内容でも、伝え方ひとつで受け止められ方はまったく違うものになるんですよね。
見積書を受け取ったら、「諸経費」の欄が何を指しているのか、遠慮せずに聞いてみてほしいと思います。廃材処分費は含まれているのか、遠方からの出張費はかかるのか、工事中に追加で発生しうる費用はあるのか。ここを契約前に確認しておくだけで、工事後の印象は大きく変わります。担当者が嫌な顔をせずに答えてくれるかどうかも、実はひとつの見極めどころだったりします。
先日も、埼玉県のお客様から似たようなご相談をいただきました。二社から見積もりを取ったところ、片方は諸経費の内訳が細かく書かれていて、もう片方は「諸経費一式」としか書かれていなかったそうです。金額だけを比べると後者のほうが安く見えたのですが、内訳を尋ねてみると、廃材処分費が別途かかることが分かりました。結果として、内訳が明確だった業者を選ばれたと聞いています。「聞いてよかった」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
業界に身を置いて20年近くになりますが、諸経費をめぐるトラブルは、金額そのものよりも「説明されていなかった」という気持ちの部分で大きくなることが多いです。数千円、数万円の話であっても、事前に一言あれば納得できたはずのものが、後出しになった途端に不信感に変わってしまう。それを何度も見てきました。
弊社では、加盟店の皆様に見積書の内訳をできるだけ具体的に示していただくようお願いしています。すべての費用を一つ残らず書き出すのは難しいこともありますが、少なくとも「諸経費に何が含まれるか」を口頭でも書面でも伝えていただくことが、後々の信頼につながると考えているからです。複数の見積もりを並べてみると、こうした細かな違いにも気づきやすくなります。小さな一行にこそ、業者の姿勢が表れるのだと思っています。