外壁塗装は一般的に、下塗り・中塗り・上塗りの3工程で進みます。それぞれの塗り重ねの間には乾燥のための時間が必要で、この時間を十分に取らないまま次の工程に移ってしまうと、塗膜同士がうまく密着しないことがあるんです。
表面は綺麗に見えていても、内側に水分が残ったまま封じ込められた状態になってしまうことがある。夏の強い日差しや冬の凍結でその水分が膨張・収縮するたびに、少しずつ塗膜が浮いてきて、やがて剥がれへとつながっていく——そういった事例を、私はこの業界に身を置いてきた中で幾度も目にしてきました。工期を短く抑えたい、という業者側の事情が全くないとは言い切れません。ただ、乾燥時間を削ることで一番困るのは、工事から数年後の施主さんなんですよね。
前職でマッチング管理を担当していた頃の話です。工事完了から1年半ほど経ったある日、関東にお住まいのご夫婦からお電話をいただきました。「南向きの外壁だけ、塗装がボロボロと剥がれてきている」というご相談でした。
施工記録を確認してみると、工事は3日間で完了していました。梅雨明け直後で気温も高く、業者側は「乾燥は十分だった」という立場でした。ただ、真夏の高温時は表面だけが先に固まりやすく、内側の乾燥が追いつかないまま次の工程に進んでしまうケースがあることは、業界では以前から言われている話でもあります。結局、乾燥時間をきちんと確保したかどうかを証明できる記録が何も残っていなかったため、施主と業者の主張が平行線をたどり、解決まで長い時間を要してしまいました。
「信じて任せたのに、どうしてこうなるんですか」というご夫婦の言葉が、今でも胸の奥に残っています。あの案件があったからこそ、私は施工記録の大切さをこれだけ強く伝え続けているのかもしれません。
施主の方が現場で乾燥時間を測る必要はありません。ただ、着工前にいくつかのことを業者に確認しておくだけで、ずいぶん違ってくると思います。
まず「工程表をもらえますか」と聞いてみてください。各工程の予定日を明示した工程表を用意してくれる業者は、工事の段取りをきちんと管理している証でもあります。下塗り・中塗り・上塗りが同じ日にまとめて記載されているような工程表には、少し注意が必要かもしれません。乾燥に十分な日数が設けられているかどうか、ぜひその目で確認してみてください。
もうひとつ、各工程の施工写真を残してもらえるか、契約前に確認しておくことをお勧めしています。写真があれば後から振り返ることができますし、業者側にも一つひとつの工程を丁寧に進めようという意識が生まれやすい。先日、埼玉県からご相談にいらしたお客様に同じ話をしたところ、「そんなことをお願いしていいんですか」と驚かれていました。遠慮なく聞いていいことですよ、とお伝えしました。
塗料にはメーカーが定める乾燥時間の目安があり、気温や湿度の条件によって変わります。雨天や高湿度の日は乾燥が遅れることが多く、逆に真夏の炎天下は前述のように別のリスクが生じることもある。
以前、ある業者の方から「お客様が早く終わらせてほしいとおっしゃるので、乾燥が少し足りないかもしれないけれど進めてしまった」という話を聞いたことがありました。施主の気持ちは私にもよく分かります。工事中は養生シートで窓が塞がれたり、騒音が続いたりと、日常生活への影響が少なくない。一日でも早く元の生活に戻りたいと思うのは、自然なことです。それでも、乾燥時間だけは天候と塗料の特性に合わせて待つしかない部分なんですよね。急いだ分のしわ寄せは、数年後の塗膜の状態となって出てくることがある——そのことを、ぜひ頭の片隅に置いておいてほしいと思います。
「工期が予定より1日延びましたが、気温が上がりきらなかったので乾燥日をもう一日取りました」と連絡をくれる業者の方がいます。私はそういう一言を、とても大切にしているんです。