支線というのは、電柱が倒れないように斜めに張られている鉄線のことです。道路脇の電柱から伸びて、地面のアンカーに固定されているのが一般的なのですが、敷地の都合で地面に打てない場合、お隣の建物の外壁に金具で固定させてもらっていることがあるんです。何十年も前に許可を取って設置されたまま、代替わりして今のお客様がその経緯を知らない、というケースも珍しくありません。
普段は目立たないので、蔦が絡んでいたり物置の陰に隠れていたりすると、住んでいるご本人すら存在に気づいていないことがあります。高圧洗浄や足場を組む段階になって、職人さんが「これ、うちの塀じゃないですよね」と気づく。そんな瞬間があるのです。
長野県のあるお客様のお宅は、外壁の一面が蔦で覆われていました。契約時の現地調査では蔦の下までは確認できず、いざ足場を組む日になって、蔦を剥がしたところに金具でがっちり固定された支線が出てきたんです。業者さんも動かせるものではないので、電力会社に連絡を取って、支線を一時的に移設してもらう手続きが必要になりました。
結局、その調整だけで二週間ほど工程が延びてしまいました。お客様が困っていたのは日程よりも、むしろ「誰もこんな可能性を教えてくれなかった」という不安の方だったように思います。契約前にひとこと説明があれば、心の準備ができたはずなんですよね。あのときのお電話の声を、今でも覚えています。
こうした支線や共架物は、外壁の面積を測るだけの調査では見落とされがちです。本来であれば、エアコンの室外機やアンテナと同じように、外壁に取り付けられている設備をひとつひとつ確認していくべきものだと私は思っています。
電力会社や通信会社の設備は、施主の持ち物ではないので、業者が勝手に外すことはできません。事前に見つけて連絡しておけば、契約から着工までの間に移設や一時撤去の調整を済ませておくことができます。逆に、着工してから気づくと、足場を組んだまま作業が止まってしまう、という事態になりかねません。
もし外壁に見慣れない金具や、電柱から伸びる鉄線らしきものがあれば、現地調査の際に「これは何の設備ですか」と一度聞いてみてほしいのです。業者側も、支線や共架物の有無を確認したうえで、必要であれば電力会社への連絡を契約前に済ませておくのが望ましい対応だと思います。
すべてのお宅に当てはまる話ではありませんが、蔦が多い外壁や、築年数の古いお宅では起こり得ることです。工期に余裕を持たせておくことと、見慣れない設備を見つけたら遠慮なく聞いてみること。それだけで、慌てずに済むはずです。