前職で現場に足を運んでいた時、ふと気になったことがあるんです。同じ内容の見積もりでも、道具箱を開けた瞬間に「あ、この職人さんは違うな」と感じることがありました。刷毛やローラーが丁寧に手入れされていて、柄の部分まで乾いた塗料がこびりついていない。逆に、道具箱の中がバラバラで、刷毛の毛先が固まったままになっている現場もありました。
当時はまだ経験も浅くて、なぜそんな細部が気になるのか自分でもよく分かっていなかったんですよね。ただ、後から振り返ると、道具を大切に扱う職人さんの現場は、仕上がりのクレームがほとんど無かったという印象が強く残っています。
忘れられないお話があるんです。長野県のあるお客様から、工事が終わったあとにお電話をいただいたことがありました。「職人さんが毎朝、道具を並べてから作業を始めるんです。なんだか安心して見ていられました」と。私はその言葉を聞いて、施主の方は塗料の種類や工程だけでなく、職人さんの所作そのものを見ているんだなと気づかされました。
道具の手入れというのは、直接契約書には書かれない部分です。けれど、そこに職人さんの仕事への向き合い方が表れるのだと、私は思っています。
とはいえ、道具箱を開けてチェックしてくださいとお願いするのも現実的ではありません。私がお伝えしたいのは、もっと自然な形での確認方法です。
例えば、休憩時間や作業の合間に、道具がどこにどう置かれているか。使い終わった刷毛をそのまま地面に転がしていないか。マスキングテープの端がきれいに揃っているか。こうした些細な様子から、現場全体の空気感は伝わってくるものです。
業界に身を置いて20年になりますが、道具を雑に扱う現場ほど、後になって「ここも直してほしい」というご相談が増える傾向があったように感じています。もちろん全てがそうとは言い切れませんし、断定はできません。ただ、複数件そうした場面に立ち会ってきた実感があります。
先日も、ある加盟店の職人さんとお話しする機会があったのですが、「道具は、この仕事を映す鏡のようなものだから」とおっしゃっていました。その言葉が今も心に残っています。道具を大切にするというのは、結局のところ、その人の仕事、そしてその先にいるお客様を大切にすることと同じなんだと思うんです。
私自身、13,000件以上のマッチングに関わってきた中で、見積もりの金額や工程表だけでは見えてこない部分がたくさんあることを痛感してきました。だからこそ、こうした小さな所作にも目を向けていただきたいという気持ちで、この話を書きました。