外壁のひび割れを見つけたとき、「塗り替えれば直る」と思っている方は少なくありません。塗り替えのタイミングとしては正しいのですが、ひび割れには実はいくつかの「種類」があって、その種類によって必要な対処がまったく変わってくるんです。
大きく分けると、幅がごく細い「ヘアークラック」と、幅が広く深さもある「構造クラック」があります。前者は表面の塗膜が収縮してできることが多く、適切な下地処理と塗装で対応できることも多い。でも後者は、単純に上から塗料を乗せるだけでは、根本的な対処にならないことがあるんですよね。
前職で担当していたころ、埼玉県のあるお客様から「塗り替えてまだ2年しか経っていないのに、室内の壁にシミが出てきた」とお電話をいただいたことがあります。工事の記録を確認すると、施工時にひび割れは「パテで埋めて上から塗った」とのことでした。悪意のある業者さんではなかったと思うんです。ただ、そのひび割れの状態には、もう少し踏み込んだ補修が必要だったのだと、今でもそう感じています。「お金を払ったのに、どうしてこうなるの」というお客様の言葉が、ずっと忘れられないんです。
外壁塗装というのは、ひび割れを物理的にふさぐための工事ではありません。壁の表面を保護する薄い膜をつくる工事です。
ですから、外壁に入ったひび割れが、塗装によってふさがれるわけではないんですよね。塗料の膜は、壁が温度変化で動いたり収縮したりするたびに、少しずつ追随できなくなっていきます。特に深いひび割れは、雨水が毛細管現象のように内部に入り込みやすい状態になっていることがあって、塗膜の下でじわじわと進行してしまうことがある。外から見ている分には分からないのが、また厄介なところで。
「塗り替えたから安心」という気持ちは、お客様としてはごく自然なことだと思います。だからこそ、業者側がひび割れの状態をきちんと説明して、必要な補修を提案する責任があるはずなのですが、前職での経験では、見積もりの段階でクラックの状態についてきちんと話してくれる業者さんは、それほど多くなかったように感じています。
構造クラックへの対応として、業界では「Uカットシール工法」という補修方法が使われることがあります。ひび割れをU字型に削り広げ、専用のシーリング材を充填してから塗装する、という手順です。名前だけ聞くと大がかりに思えるかもしれませんが、水の侵入を防ぐためには、とても理にかなった方法なんです。
この補修を施すと、見積もりに費用が追加されます。「余計な費用では?」と感じるお客様もいらっしゃるかもしれない。でも逆に考えると、ひび割れの状態をきちんと診て、必要な補修を提案してくれている業者さんである、ということでもあるんです。
以前、岐阜県のお客様から「見積もりに『クラック補修費』という項目があったけれど、他の業者の見積もりにはなかった。これは余計な費用なのか」というご相談をいただきました。現地の写真を確認させていただいたところ、明らかに補修が必要なひび割れが複数本入っていて、その状態を見て適切な対応を提案してくれていた業者さんだということが分かりました。費用の差は、工事への向き合い方の差だったんです。あのときはお客様に「そういうことか」と言っていただけて、私もほっとしたのを覚えています。
業者さんへの質問は、難しく考えなくて大丈夫です。「うちの外壁のひび割れは、塗る前にどんな補修をしてもらえますか」この一言を聞いてみてください。
ひび割れの状態を確認していてくれた業者さんであれば、クラックの種類と、それに対してどう対処するかを説明してくれます。「塗れば大丈夫ですよ」という曖昧な答えしか返ってこない場合は、もう少し詳しく聞いてみる価値があると思います。
見積書でも、「クラック補修」や「下地補修」という項目が含まれているかどうかを見てみてください。「一式」という表記だけで内容が読み取れない場合は、何をするのかを確認してみることをお勧めしています。外壁のひび割れは、目に見えている部分がすべてではないことがある。そのことを頭の片隅に置いておいていただけると、工事後に「こんなはずじゃなかった」となるお客様を、少しでも減らせるかもしれないと思っています。