塗装会社にも会社である以上、決算月というものがあります。3月、9月、12月あたりに設定している会社が多い印象なのですが、この時期が近づくと、営業トークの温度が変わることがあるんですよね。「今月中にご契約いただければ」という言葉が増えてくるのは、偶然ではない場合があります。
私自身、前職で窓口をしていた頃、この時期になると問い合わせの件数が普段と違う動き方をすることに気づきました。お客様側からすると単なる「セール」に見えても、業者側からするともう少し切実な事情が絡んでいることがあるのです。
職人さんのスケジュールを埋めておきたい、資材の仕入れ計画を立てやすくしたい、決算の数字を整えたい。理由はひとつではありませんが、こうした社内事情が、値引き提案という形でお客様の前に現れることがあります。
これ自体は、悪いことだとは思っていません。会社を経営していれば当然出てくる事情ですし、結果としてお客様にとってお得な条件になることもあります。ただ、その事情を知らないままだと「なぜ今だけこんなに安いのか」を冷静に考える機会を失ってしまうことがあるんです。
忘れられないお話があるんです。長野県にお住まいのお客様から、以前こんなご相談をいただきました。訪問してきた業者から「今月末が決算で、今契約いただければ通常より安くできます」と言われ、その場で契約書にサインをしてしまったそうです。
後になって別の業者にも見積もりを頼んでみたところ、提示された金額とほとんど変わらない、あるいはそれ以上の内容で見積もりが出てきたと聞きました。決算値引きという言葉の響きに、比較するという当たり前の手順を後回しにしてしまったのです。お客様は「あの時、一度立ち止まっていれば」とおっしゃっていました。この話を聞いて以来、決算月の仕組みは、もっとお客様に知っておいてほしいことのひとつだと思うようになりました。
誤解のないように伝えたいのですが、決算月に合わせた値引きが、すべて怪しいものだとは思っていません。業者にも事情があり、その事情とお客様のタイミングがたまたま重なって、良い条件になることもあります。
問題なのは、値引きの理由が「決算だから」以外に説明されず、比較する時間も与えられないまま契約を迫られるケースです。理由を尋ねても曖昧にはぐらかされたり、「今日決めてもらわないと」と急かされたりする場合は、少し立ち止まって考えてほしいと思います。
業界に身を置いて20年、いろいろな契約の場面に立ち会ってきました。その中で感じるのは、良い提案であれば、数日待ってもらっても内容は変わらないはずだ、ということです。本当にお客様のことを考えている業者であれば、比較検討の時間を惜しむような急かし方はしないものです。
決算月という言葉を聞いたら、なぜ今なのか、他の業者と比べてどうなのかを、一呼吸置いて確認してみてください。それだけで、後悔を防げることがあると思っています。